『異世界居酒屋「のぶ」』でコミカライズも果たし勢いを見せる 蝉川夏哉 さんのふとした
思いつきをもとに、糸畑要 さんが企画・編集して「コミックマーケット88」にて頒布した
アンソロジー。他に 谷津矢車 さん、DJあかい さんを迎えて44ページに渡る短編集です。
【 http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/33/75/040030337551.html 】
東京への人口集中、そして高齢化する状況を問題視し成立した、いわゆる「東京定年法」
により東京に住む65歳以上の高齢者には高額の税金や医療費等の負担割合増加が課せられ
東京から出ることを余儀なくされる──。そんな未来を想定して生まれた短編の数々です。
一作目は原案の発案者である 蝉川夏哉 さんによる「東京ゴールデン街の夜」。浜松に移り
5年が経過した“忠雄”が久々に東京、新宿へ足を運び「東京定年」を迎えた高齢者の哀愁
に触れながら、「ゴールデン街」の雑多な雰囲気が取り持つ奇妙な縁を描くエピソード。
冒頭でも述べた通り、「異世界グルメもの」での活躍がめざましい 蝉川 さんらしい飲食の
描写を踏まえつつ、高齢者だけでなく若者も視点に加えることでありえそうな未来や考え方
をより現実的なものとして感じさせる小編でした。最後に僅かな救いがあるのが良いです。
二作目は 蝉川 さんの原案にのって企画・編集を務めた 糸細要 さんによる「第4の人生」。
もうじき65歳、「東京定年」を迎える専業主夫の“昭雄”がまだまだ働き盛りの妻“凪子”
との関係を見つめ直し学校、会社、夫婦とは違う新しい生き方を模索する顛末を描く小編。
「高齢者適正居住推進センター」、通称「姥捨機関」という東京の外へ移住する候補地を
その人の資産状況や家族構成などを元に機械的に選び出すこの機関の衝撃的な描写たるや。
娘の“佐久良”が“昭雄”のことを考えてくれる良い子であるところに希望を感じました。
三作目は、ゲストとして迎えられた DJあかい さんによる「ドキュメント・東京定年」。
彼女から結婚を迫られ、いざその親に会ってみると「仕事が不安定な奴に娘はやれん」と
否定される始末。30歳直前ということもあり人生設計を見直す“僕”の機微を描きます。
「独立行政法人 人口適正化機構」いわゆる「東京定年機構」に転職した“僕”が高齢者
と応対する回数を重ねていく中で、東京の問題を地方に押し付ける施策への疑問を示唆する
短いながらも考えさせられる小編。最後に親が「落とし前」をつけてくるのが潔いです。
四作目、アンソロジーの最後を飾るのは 谷津矢車 さんの「そう、それは灰色の未来」。
「東京定年法」の施行から10年が経過した日本で同じ嗜好をもつ老人たちが新しい組織体
「インテレシャフト(興味社会)」を形成されていると記事を書く“潮見”に関する話。
「東京定年」に更なる可能性を加え新たなテーマとして投げかけ直す、約20ページに渡る
小編はトリを務めるだけあって実に読み応えがあります。谷津 さんの体験? を活かした
ちょっとした遊び心も加えられていて思わずニヤリとさせられる場面も。実に秀作でした。
2015年の1月3日、Twitter 上での 蝉川 さんと 糸細 さんのやりとりを拝見して興味を
抱いた企画がこうして1冊の本にまとまる、そして読めるという現実を目の当たりにして
「同人誌」の可能性と言いますか、凄いものだと実感いたしました。オススメの一冊です。
#
#(参考)
#
##東京定年 まとめ
#【 http://togetter.com/li/765729 】
#
#谷津さん、「東京定年」寄稿作について語る - 谷津矢車観察日記
#【 http://blogs.yahoo.co.jp/yatsuyaguruma_sousaku/13541325.html 】
#
2015年09月06日
2015年09月05日
『小学生なのに恋をしたら死ぬとか、つらたんです』&『劇場版 アイリッシュスナイパー 〜恋をしたら死ぬとか、つらたんです〜』
みかみてれん さんの自著『恋をしたら死ぬとか、つらたんです』の非公式書き下ろし長編。
「コミックマーケット88」で頒布された、恋を知らない“ヒナ”の幼少期を描く一冊です。
(イラスト:荒川 さん)
みかみてれん さん、藤村由紀(古宮九時)さんの合同サークルへ委託した 鰤/牙 さんの
『劇場版 アイリッシュスナイパー 〜恋をしたら死ぬとか、つらたんです〜』も拝読です。
(イラスト:そばや さん)
【 http://unnamed.main.jp/turatania/ 】
【 http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/32/39/040030323970.html 】
【 http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/32/49/040030324938.html 】
何はともあれお祭り企画。「小学生〜」は、今ではクレイジーサイコビッチとして名高い
“ヒナ”が見せる幼少期の好奇心旺盛っぷりにまず驚かされます。そして彼女にまだ知らぬ
恋を教えようとする“あいり”と、それを見届ける“美卯”とのやりとりが面白いです。
「小学生〜」で登場するこの三人が「アイスナ」でも登場。しかも、それぞれに「恋」を
知った上で。“ヒナ”が引き起こす「突発性胸キュン死」の顛末がこれぞクロスオーバー
という逸話の数々でこれまた面白い。それにしても そばや さんの絵、ステキすぎです。
“シュルツ”の苦労性な面も久々に見れて一安心したところで「別冊活動報告その2」の
『みかみてれんは誰だ!』ですが「なろう」にも明るくない身には全問正解など夢また夢。
いきなり「プロレスのお話」に持っていくのは笑いました。読んで損はない本ばかりです。
「コミックマーケット88」で頒布された、恋を知らない“ヒナ”の幼少期を描く一冊です。
(イラスト:荒川 さん)
みかみてれん さん、藤村由紀(古宮九時)さんの合同サークルへ委託した 鰤/牙 さんの
『劇場版 アイリッシュスナイパー 〜恋をしたら死ぬとか、つらたんです〜』も拝読です。
(イラスト:そばや さん)
【 http://unnamed.main.jp/turatania/ 】
【 http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/32/39/040030323970.html 】
【 http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/32/49/040030324938.html 】
何はともあれお祭り企画。「小学生〜」は、今ではクレイジーサイコビッチとして名高い
“ヒナ”が見せる幼少期の好奇心旺盛っぷりにまず驚かされます。そして彼女にまだ知らぬ
恋を教えようとする“あいり”と、それを見届ける“美卯”とのやりとりが面白いです。
「小学生〜」で登場するこの三人が「アイスナ」でも登場。しかも、それぞれに「恋」を
知った上で。“ヒナ”が引き起こす「突発性胸キュン死」の顛末がこれぞクロスオーバー
という逸話の数々でこれまた面白い。それにしても そばや さんの絵、ステキすぎです。
“シュルツ”の苦労性な面も久々に見れて一安心したところで「別冊活動報告その2」の
『みかみてれんは誰だ!』ですが「なろう」にも明るくない身には全問正解など夢また夢。
いきなり「プロレスのお話」に持っていくのは笑いました。読んで損はない本ばかりです。
2015年04月12日
『よし×けい』
ライトノベル作家が同業者を美少女化した挙句、百合カップルに仕立て上げる事案が発生
ということで 弘前龍 さんのライトノベル作家ペアリング小説第二弾を拝読であります。
(イラスト:ふゆまる さん 曲・動画:ほのづき さん コミック:すざき さん)
【 http://www.nicovideo.jp/watch/sm25850399 】
【 http://www.pixiv.net/member_illust.php?illust_id=49421269&mode=medium 】
【 http://www.nicovideo.jp/watch/sm24167772 】
【 http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=21686 】
今回の主役は“折口ヨシノ”と“十階堂ケイ”。拾い上げ作家は同業の知り合いが少ない
と感じる“ヨシノ”が同じような境遇にある(と思われる)作家と集まる会を設けた事が
きっかけで、“ケイ”という珍獣(?)と顔を合わせたところから物語は動き始めます。
予備動作なしで拳を入れたりとドSっぷりを見せる“ヨシノ”とそれでもへこたれず奇行
に走るドMっぽさを感じさせる“ケイ”がどうして朝チュンしてしまう展開になだれ込む
のか、その衝撃的な顛末に注目です。大事な場面で噛んでしまう“ヨシノ”が可愛いです。
本編中にも登場した“ナツキ”と“ミサキ”のその後を描く『なつ×みさアフター』では
しっかりしていても抜けている“ナツキ”とちゃらんぽらんながらもキメる所はキメる
“ミサキ”のいつも通りな感じが堪能できます。次はどのカップリングですかね(苦笑)。
ということで 弘前龍 さんのライトノベル作家ペアリング小説第二弾を拝読であります。
(イラスト:ふゆまる さん 曲・動画:ほのづき さん コミック:すざき さん)
【 http://www.nicovideo.jp/watch/sm25850399 】
【 http://www.pixiv.net/member_illust.php?illust_id=49421269&mode=medium 】
【 http://www.nicovideo.jp/watch/sm24167772 】
【 http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=21686 】
今回の主役は“折口ヨシノ”と“十階堂ケイ”。拾い上げ作家は同業の知り合いが少ない
と感じる“ヨシノ”が同じような境遇にある(と思われる)作家と集まる会を設けた事が
きっかけで、“ケイ”という珍獣(?)と顔を合わせたところから物語は動き始めます。
予備動作なしで拳を入れたりとドSっぷりを見せる“ヨシノ”とそれでもへこたれず奇行
に走るドMっぽさを感じさせる“ケイ”がどうして朝チュンしてしまう展開になだれ込む
のか、その衝撃的な顛末に注目です。大事な場面で噛んでしまう“ヨシノ”が可愛いです。
本編中にも登場した“ナツキ”と“ミサキ”のその後を描く『なつ×みさアフター』では
しっかりしていても抜けている“ナツキ”とちゃらんぽらんながらもキメる所はキメる
“ミサキ”のいつも通りな感じが堪能できます。次はどのカップリングですかね(苦笑)。
2014年08月31日
『NR4』
前野ひろみち・仁木英之・円居挽・寒河狷介・秋月耕太・箕崎准(敬称略)によるリレー
小説、そして短編を収録した「奈良」愛に溢れる同人誌、その第4弾を拝読であります。
(イラスト:ふみふみこ さん)
【 http://lilting.ch/dojin/nr/4/ 】
リレー小説はとある健康法「NR療法」を題材にした物語。施術士が注意を促す「NR空間」
の謎がやがて「NR療法」そのものに秘められた壮大な計画へと繋がっていく展開はまさに
「どうしてそうなった」感がハンパなくて素敵。最後はきちんとラブで収めてきますし。
秋月耕太 さんの「ふたりの、密室」が密室百合もので一番楽しめました。すれ違って、
でもまたちょっと戻してという淡くて脆い関係が好きです。そういう点では 箕崎准 さん
の「奈良の女子校生が「ろこどる」やってみた。」も百合だから好きですね。(そこか)
円居挽 さんの「NGNR(ノゲナラ)」が毎度トレンドを押さえてくるタイトルで惚れ惚れ
します。とある学園を担う一族の弱みを握るため暗躍する少年が見せる人情もの、という
ことで内容も良かったです。次回『NR5』で締め括りとなるそうですので期待しています。
小説、そして短編を収録した「奈良」愛に溢れる同人誌、その第4弾を拝読であります。
(イラスト:ふみふみこ さん)
【 http://lilting.ch/dojin/nr/4/ 】
リレー小説はとある健康法「NR療法」を題材にした物語。施術士が注意を促す「NR空間」
の謎がやがて「NR療法」そのものに秘められた壮大な計画へと繋がっていく展開はまさに
「どうしてそうなった」感がハンパなくて素敵。最後はきちんとラブで収めてきますし。
秋月耕太 さんの「ふたりの、密室」が密室百合もので一番楽しめました。すれ違って、
でもまたちょっと戻してという淡くて脆い関係が好きです。そういう点では 箕崎准 さん
の「奈良の女子校生が「ろこどる」やってみた。」も百合だから好きですね。(そこか)
円居挽 さんの「NGNR(ノゲナラ)」が毎度トレンドを押さえてくるタイトルで惚れ惚れ
します。とある学園を担う一族の弱みを握るため暗躍する少年が見せる人情もの、という
ことで内容も良かったです。次回『NR5』で締め括りとなるそうですので期待しています。
2014年08月25日
『101番目の百物語異聞』
「MF文庫J」から刊行され、完結した『101番目の百物語』の外伝を サイトウケンジ さん
自らが描く同人誌。装丁を 木緒なち さんが担当し、ペーパーが付くなど豪華仕様です。
(イラスト:涼香 さん)
【 http://odorigui.blog.jp/archives/1007448524.html 】
“モンジ”のことを想うあまり“理亜”が「迷いの森(ワンダーフォレスト)」のロアに
苦戦を強いられるのが前段となる異聞外話。彼女の窮地を救うため、“一之江”の凶悪な
までに強い能力が遺憾なく発揮されます。相変わらずラブラブだなぁ、こんちくしょう。
そして本編となる異聞では、目撃情報という噂を介していつの間にか本人と入れ替わる
「存在しない自分(ゼロ・セルフ)」のロアに“モンジ”の主人公特性をコピーされ、
“一之江”の存在をもコピーされるという前代未聞の窮地に“モンジ”が立たされます。
それをどう覆すか、という方法が信頼と親愛に満ちた彼ら、彼女らにふさわしい内容で
「爆発しろ」レベルです。これぞ『101番目の百物語』、十分に楽しめました。頒布も
盛況で再販決定とのことですのでご祝辞を。そして益々のご活躍を祈念しております。
【 http://odorigui.blog.jp/archives/1008018034.html 】
自らが描く同人誌。装丁を 木緒なち さんが担当し、ペーパーが付くなど豪華仕様です。
(イラスト:涼香 さん)
【 http://odorigui.blog.jp/archives/1007448524.html 】
“モンジ”のことを想うあまり“理亜”が「迷いの森(ワンダーフォレスト)」のロアに
苦戦を強いられるのが前段となる異聞外話。彼女の窮地を救うため、“一之江”の凶悪な
までに強い能力が遺憾なく発揮されます。相変わらずラブラブだなぁ、こんちくしょう。
そして本編となる異聞では、目撃情報という噂を介していつの間にか本人と入れ替わる
「存在しない自分(ゼロ・セルフ)」のロアに“モンジ”の主人公特性をコピーされ、
“一之江”の存在をもコピーされるという前代未聞の窮地に“モンジ”が立たされます。
それをどう覆すか、という方法が信頼と親愛に満ちた彼ら、彼女らにふさわしい内容で
「爆発しろ」レベルです。これぞ『101番目の百物語』、十分に楽しめました。頒布も
盛況で再販決定とのことですのでご祝辞を。そして益々のご活躍を祈念しております。
【 http://odorigui.blog.jp/archives/1008018034.html 】