2020年05月22日

『着せ替えは心変わりを呼び起こさない!』

古宮九時さんが「Unnamed Memory Act.2」を舞台に日常の事件を描く書き下ろし同人小説。
競売に掛けられる「人の心を変える」指輪を巡って“オスカー”たちが首を突っ込みます。
(イラスト:藤崎ゑる(くん) さん)

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=651846


片づけていたヴェールをたまたま着けていた“ティナーシャ”。その艶姿を見た流れから
“オスカー”が彼女を着せ替え人形のように扱うやりとりが面白い。けれどその胸の内に
秘める焼けつくような熱量を表に出さずにいる彼の気丈さは立派でありながら実に切ない。

服の仕立てで世話になっている商家に纏わる「人の心を変える」という指輪。事の真偽を
確かめるべく競売の席に踏み込む2人が場を荒らしまくる展開が楽しい。もちろん彼女の
無邪気な言動に心かき乱されながらも、立場を弁え達観する彼には同情を禁じ得ない訳で。

「人の心を変える」指輪を見よう見まねで自作できてしまう“ティナーシャ”のすごくて
ポンコツな実力が、この騒動の意外な真実を見抜く結末。心も着せ替えることができたら、
タイトルにそんな願いも込められているのではと感じさせるのが本作らしくて絶妙でした。

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2020年01月17日

『零れた灰を嘆くとも』『死骸の森』

古宮九時 さんのサークル「memoriae」が贈る、愛と呪いの一大叙事詩『Unnamed Memory』。
「灰の見る夢」の続編ともう1つ、誰の記憶にも残らないかもしれない逸話を描きます。

http://unnamed.main.jp/words/


“オスカー”との幸せな生活がついに始まる、という“ティナーシャ”に襲いかかる悲劇。
彼からの愛を噛みしめていた彼女が自責の念に駆られる中、ふと思い出した言葉と魔法具。
やり直せるかもしれない、と迷う彼女の想いを汲む“ラザル”が手を伸ばしてしまいます。

再びその時に巡り合った“ラザル”が目にする、“オスカー”と“ティナーシャ”の関係。
望まぬ展開、掛けられる嫌疑、見抜かれる違和感、嫌な予感に反応する己の体。流れる涙
と救われない想いは切なく、けれどまたこれも『Unnamed Memory』だと納得できるワケで。

そんな物悲しさを補うかの如く綴られた『死骸の森』では、突然失踪した魔法士の変死体
が海に打ち上げられた謎を探る“ティナーシャ”が、一冊の本に隠された秘密を露にする
ことで、ある人物の理解されない想いに触れる。これまた深く重く余韻を残す一冊でした。

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2020年01月16日

『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話4』

みかみてれん さんのサークル「てれたにあ」が贈る百合小説「百日百合」シリーズ第4巻。
恋人である“絢”との関係をより深めたいと懊悩する“鞠佳”の猪突猛進ぶりを描きます。
(イラスト:雪子 さん)

http://unnamed.main.jp/teretania/


ゴムにも色々あるけれど、と思いがけず新たな知識を身につけた“鞠佳”。そんな彼女を
頼りに“夏海”から持ち掛けられたお悩み相談は、突然のカミングアウト。相手は後輩の
“晴”で、聞くと“鞠佳”のファンだと言うから“絢”の警戒レベルも上がるというもの。

“鞠佳”一筋だからこそ思っている以上に隙のある彼女を独占しようと時も場所も構わず
行為に及ぼうとする“絢”。いま思えば“絢”が抱える不安というか闇の表れとも取れる
エピローグが気になる所。3年生の終わりに迎えるのは永遠の繋がりか、それとも別離か。

“鞠佳”に逆転されるつもりはないと息巻く“絢”、2人の関係もさることながら周囲の
百合百合しいやりとりも楽しくなってきた本作。今巻は“知沙希”の意外な気遣いがもう
ツボでした。“悠愛”がボロ泣きしたのも分かるというもの。そんな場面もお見逃しなく。

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2019年09月13日

『失恋文庫 書き下ろし失恋小説アンソロジー』

涼暮皐さんの「失恋構文」に端を発する企画が実を結びアンソロジーとしてC96にて頒布。
人気ライトノベル作家たちが集結して「失恋」をテーマにした思い思いの物語を綴ります。
(イラスト:おしおしお さん)

https://note.mu/wataruumino/n/nd51f9d320814


「灰色青春は傷つかない」(雨宮和希 さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
中高のバスケ部でマネージャーを務める幼なじみの“京華”よりもバスケを選んだ“蒼”。
夢破れ、大学のサークルで“由美乃”と付き合うも“京華”への想いを引きずり別れた彼。
改めて想いを伝えるも時すでに遅し。それでも前向きな姿勢を示してくれたのが救いです。


「ずっと一緒な君と僕」(北山結莉 さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
幼なじみの“理香”が好きな“良太”が、彼女に釣り合う男になろうと努力し、成人式を
迎えた日に婚約するまでに至る。そして結婚生活まで見据えてお金を貯めようとする彼の
心意気は美談なのに報われず、人生すら棒に振るような結末が只々虚しくて、切なくて。


「乗り換えは君のいた大宮で」(ゆうびなぎ さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
バスケに打ち込む“朝斗”に惚れた“りん”が失恋するまでを描く小編。バスケを辞めた
彼への想いが冷めていく彼女の心の隙間を狙うかの様に現れた“夕陽”。靡く彼女に対し
サッと身を引く“朝斗”。共に大宮での経験を胸に生きていく所もまた青春なのでしょう。


「独り占め。」(しめさば さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
隣の家に住む幼なじみの“アキ”に恋心を抱く“ユキ”だが彼の想い人は彼女の姉である
“ナツ”。三者三葉の視点をもとに恋心のベクトルを描きながら、迂闊に決定的な瞬間を
迎えた3人が選ぶ結末。“ユキ”の心情が描かれていないのが空恐ろしいとも感じます。


「『シラノが想いを告げる時』」(子子子子子子子 さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
“白乃”と“縫奈”は小学校から続く女友達。いつしか“縫奈”に恋心を抱く“白乃”に
剣道一筋の“聖人”が「“縫奈”と付き合いたいので協力してほしい」とお願いされる。
戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」になぞらえる彼女の決断と結末が現実的で儚いです。


「ホンメイ*ログアウト」(ゆうびなぎ さん)
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「わたしと浮気……してみない?」同じ予備校に通う“未卯”に持ち掛けられた“明治”
には“真央”という彼女がいる。しかし、彼女の恋心に重さを感じていた彼に“未卯”の
誘いは甘言、渡りに船。そして迎える決定的な瞬間、イブの日。浮気はだめですよ浮気は。


「昔の私へ」(屋久ユウキ さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
アラサーという時期を迎え、未だ独身で彼氏もいないある女性が過去の自分に対して手紙
という形で数々の男性遍歴を綴りつつ、その生き方に至った心境を自己分析していく小話。
卑下しながらも自分のことが好き、と言及する彼女に幸せは訪れるのかは、神のみぞ知る。


「虚無・A」(涼暮皐 さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
高嶺の花である“鹿倉”に告白し、あっさりと断られた“翔”の恋は終わったはずなのに
何故か続く彼の恋わずらい。まるで筆者が語るかの如き文面から描かれる彼の愚かな行為、
その果てに迎える興味深い結末。「失恋」の扱い方に一日の長あり、と感じさせられます。


総括
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
幼なじみヒロインはなぜにこうも立場が弱いのか。その謎を追求するのはひとまず置いて
同じテーマに合わせて短編を寄せあうことで、これだけ得体の知れないエネルギーを形成
できたこと、また読み手に共感や絶望を味わわせた実績は評価に値すると言えるでしょう。

担当編集の羽海野渉さん、緋悠梨さんも過去に言及されていた通り、読んだ短編を契機に
気になった作者がいらっしゃいましたら読者の皆さまにおかれましてはぜひ商業作品にも
手を伸ばしてほしい所で。それがアンソロジーの醍醐味でもあり、私の願いでもあります。

さらに願わくば、ライトノベルでは中々に定着しない「アンソロジー」の文化を、同人誌
という特殊な切り口ではありますが、「失恋文庫」が突破口となってくれたらと思います。
そうそう、「普通に生きてたら失恋なんてしない」という点は読む上でご考慮下さいませ。

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2019年08月30日

『Vチューバーだけど、百合営業したらドハマリした件』

みかみてれん さんのサークル「てれたにあ」が贈る新作は、高身長で可愛げがないと周囲
から見られているVtuber少女が、とあるコラボから「百合営業」に嵌まる顛末を描きます。
(イラスト:くるくる姫 さん)

http://unnamed.main.jp/teretania/


幼い頃チヤホヤされた“楓花”は16歳を迎え173cmの大柄な少女となり可愛いと言われる
事もなく。Vtuberとして栄華を取り戻そうとする彼女だが「顏はかわいい」修羅と異名を
受ける始末。そんな折、コラボの依頼を受けた「林原リリ」と対面するが実は彼女は──。

「林原リリ」こと“璃々子”が145cmと小柄なのに28歳の社会人というギャップと何より
可愛らしさに心奪われる“楓花”。コラボ配信を通じて“璃々子”が色々と拗らせた女性
だと知った“楓花”がどう反応するかが興味深い展開を見せます。挿絵の使い方も面白い。

単に2人の百合営業の顛末を楽しむだけでなくVtuberとして活動を続けてきた“楓花”が
「橙猫フーカ」にも心を救われる場面、そしてクロスオーバーな要素にもご注目頂きたい。
くるくる姫さんが描く漫画は“楓花”の格好良さが光る2人のその後が見られて幸せです。

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