2010年10月30日

『終わる世界のアルバム』

『さよならピアノソナタ』、『神様のメモ帳』 と 「電撃文庫」 で秀作を上梓し続ける
杉井光 先生がハードカバーの単行本を初めて出す、ということでフライング・ゲットして
読ませていただきました。

http://dengekibunko.dengeki.com/new/tankobon.php#t1010_1


出だしはいつもの 杉井 先生作品らしいキャラクター同士のやりとり。ただ、次第に
「生きた痕跡ごと人間が消滅し、記憶にも残らない」 という、読み手からすれば
非日常な現実が、例外的に記憶を保持できる少年 “マコ” たちの日常に去来する。

“マコ” たちのいる世界の異常性が描かれていく中、突如現れた “奈月” という
少女に 「人が消えても平然としていること」 に対する異常性を指摘される。そして
記憶を記録するための 「写真撮影」 という代償行為の本質に気付かされる。

やがて近しい人が消えた時、“マコ” は自分自身の異常さと向き合い、絶望する。
さらに “奈月” の秘密が明らかになったとき、彼が失っていた記憶と想いが蘇る。
全てを捨てるために、消えるために、その象徴たる「海」へ向かう二人──。


「人が消える」 という異常性を表現するのに 「音楽」 を用いたりだとか、それでも
スターシステムは健在だったりとか、物語のキー・オブジェクトやキー・パーソンの
設定であったりとか、随所に見られる 杉井光 節が幾度と心の琴線に触れてきます。

また、失うことの恐ろしさであるとか、大切な人を想う気持ちであるとか、機微の
描写が瑞々しくて好感が持てます。水平線の彼方に沈んでいく夕陽を、2人はどんな
気持ちで見つめていたのだろうかと、馳せる思いは尽きません。

“マコ” が本当に大切な人を憶えていたいと思ったのか、忘れたいと思ったのか。
ぜひ読んで確かめてみてほしいところです。良い話が読めた幸せをいま、改めて
じんわりと噛み締めながらこの筆を走らせた次第です。


#ページ数もテキスト量もそんなにないですから読みやすいと思いますよ。

posted by 秋野ソラ at 00:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル
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