2023年09月15日

『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 Another side story 後藤愛依梨 下』

しめさば 先生が贈るサラリーマンと女子高生の日常ラブコメディ。本編完結のその後を
描く外伝は大学生として戻って来た“沙優”が揺らす“吉田”“後藤”の関係を描きます。
(イラスト:ぶーた 先生)

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“沙優”が並々ならぬ努力を重ねて、東京の大学に進学した理由。それに気付けないほど
“吉田”も愚鈍じゃない。彼にとって彼女はどういう存在なのか。コミュニケーションを
再び重ねながら、“後藤”への想いと併せて自己分析を続け、決断を下す瞬間が印象深い。

本当に欲しいものは手に入らない。だから欲しがらない。自ら選んで一歩引き続けてきた
“後藤”が“沙優”と“吉田”の「距離感」を改めて目にして流した涙。後悔先に立たず、
身から出た錆、どんな言葉も甘んじて受けるような彼女の惨めさが滲んで見るのがつらい。

“吉田”に対していつか立派に独り立ちした姿を、新たな幸せを見せつけ見返すその日が
「彼女たち」に訪れてほしいと願って止みません。そして、様々な思い出がよぎる部屋を
後にする彼の変化に幸いあれと祈りながら、本作を綴りきった先生に御礼を申し上げます。

posted by 秋野ソラ at 00:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2023年09月14日

『仕事帰り、独身の美人上司に頼まれて2』

望公太 先生が贈る、カラダの関係から始まる大人ラブコメ。第2巻は“好き”になったら
終わる関係なはずの“実沢”と“桃生”が、行為を重ねて好意を募らせる過程を描きます。
(イラスト:しの 先生)

https://sneakerbunko.jp/product/bijinjyousi/322305000202.html


ルールを破った自覚を胸に悶々とする“実沢”を見ていろいろ察する“轡”の炯眼たるや。
というか油断が目につく“実沢”だからかも知れませんが。そんな心の隙を狙いにかかる
形になる“鹿又”に対して性欲が頭をもたげる正直さを見せつつ腹を括る姿は筋金入りか。

“実沢”からペアリングに誘ってくれたことがない、と不満を抱く“桃生”を“犬飼”が
バッサリ切り捨てる清々しさに思わず苦笑い。その“桃生”が「あの場面」に出くわせば
苛々するのも当然というか、恋だ愛だの裏写しなのは明白。途轍もない両片思いの構図で。

風邪で倒れた“桃生”を看病した礼として“実沢”が望んだデートで彼女の心の深い所に
踏み込んでいく流れは、“好き”になったら終わるような関係ではない2人を印象づける
のに十分すぎるものが。「好き放題」し合うその先に何が待ち受けるのか、気になります。

posted by 秋野ソラ at 01:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2023年09月13日

『さようなら、私たちに優しくなかった、すべての人々』

「たかが従姉妹との恋。」の 中西鼎 先生が贈る新作は、姉を自殺に追い込まれた少女の
復讐劇に、田舎町に住む一人の少年が関わっていく顛末を描く残酷青春ラブロマンスです。
(イラスト/しおん 先生)

https://www.shogakukan.co.jp/books/09453144


“栞”が住む阿加田町にある山から臨む火の手が、町を実質的に支配する田茂井家の象徴
であるセメント工場まで及び、多重爆発を引き起こす。隣にいる“冥”の悲願を達成した
彼は町を出る。彼女の心で燃え続ける復讐の炎に触れたあの日々に思いを馳せながら──。

「阿加田町が佐藤明里を自殺に追い込んだ」と“冥”が明かす姉が死に至った真相がその
例えの通りで、当事者たちの言動は残忍かつ不愉快極まりない。“冥”が超常の力を使い
無慈悲に復讐を遂げていく姿を見るのは胸がすくようでいて、どこか複雑な想いも残して。

“明里”と同じ結末を辿っていたかもしれない“栞”が“冥”の行動に受動的に付き合い、
やがて能動的に手助けしていくうちに培っていく淡い想い。異能を使う“冥”が払う代償。
映画のワンシーンに例えられた物語の結末は切なくも、どこか救われる余韻が味わえます。

posted by 秋野ソラ at 01:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2023年09月12日

『バスタブで暮らす』

「わたしはあなたの涙になりたい」の 四季大雅 先生、柳すえ 先生コンビで贈る新作は
厭世観を抱く女性が就職失敗を機にバスタブの中に引きこもる生活の一部始終を描きます。
(イラスト/柳すえ 先生)

https://www.shogakukan.co.jp/books/09453146


“めだか”は幼い頃から生きることに楽しさも、意味も見い出せないままに大学を卒業し、
就職し、パワハラで心を折られ、体調を崩す。死に損ねた体を空のバスタブに埋めながら
彼女は心の平穏を保ちつつ、生き延びていく。無意味と思う人生だけど、生きていく──。

思いがけない手段で生計を立てていく“めだか”を支援する“兄”が優秀すぎて羨ましい。
バスタブで暮らしていける彼女を見て“母”や“早苗”が「何者か」になる、なりかける
という表現、「能面」や「へのへのもへ人」という例えが物語の演出にも関わって印象的。

結婚して命を繋ぐ“兄”を見届け、結婚せず“蒼”と区切りをつけ、“翁”の言葉を胸に
優雅な復讐を成し遂げる“めだか”の胸に去来する想い。不寛容であったはずの漬物石を
容認し、再びバスタブを出て暮らしていく彼女の姿を共に見守ってもらえたらと思います。

posted by 秋野ソラ at 00:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2023年09月11日

『アルゴノゥト後章 英雄運命 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 英雄譚』

大森藤ノ 先生が贈る大人気シリーズ「ダンまち」スピンオフ作品。アプリゲーム用の大型
シナリオを書籍化した本作は、古代初期を舞台に「始まりの英雄」誕生の結末を描きます。
(イラスト:かかげ 先生 キャラクター原案:ヤスダスズヒト 先生)

https://ga.sbcr.jp/product/9784815619695/


救いたい『一』のために喜劇を演じ続ける“アルゴノゥト”が一転して英雄視されていく
顛末には胸を熱くさせられます。格好良くなるかと思えば結局は締まらないのも彼らしい。
彼の想いに感化されて後押しする友たち、中でも“クロッゾ”の示す気概がまた印象深い。

救いたい『一』のために意志を貫く者として、“エルミナ”の存在もまた忘れられません。
“アルゴノゥト”とは道を違えるやり方に終始した彼女が見せた涙、そして笑顔も本作に
おける絆の象徴として見届けてほしい展開で。覚悟を決めた“オルナ”の言動は圧巻です。

英雄譚が紡がれた瞬間を見届けた“リュールゥ”の尽力によって“ティオナ”たち、今を
生きる冒険者にも“アルゴノゥト”の演じきった喜劇が伝わっていること、さらに言えば
本編に深みを持たせる結びをしている点は読了の満足感が十分に味わえること間違いなし。

posted by 秋野ソラ at 00:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル