2023年08月31日

『ドスケベ催眠術師の子』

桂嶋エイダ 先生の「第17回小学館ライトノベル大賞・優秀賞」受賞作。ドスケベ催眠術師
の息子がドスケベ催眠術師を嫌う真意を二代目ドスケベ催眠術師と探る青春コメディです。
(イラスト:浜弓場双 先生)

https://www.shogakukan.co.jp/books/09453145


ドスケベ催眠術師の息子と周囲に知られ、心に傷を負った“沙慈”は母の離婚と共に苗字
も変えて平穏な高校生活を送っていた・・・はずだった。二代目ドスケベ催眠術師を名乗る
“真友”が彼のクラスに転校し、その力を見せつけた上で接触を図ってくるまでは──。

父“平助”が“真友”に掛けたという催眠術、また“沙慈”にも掛けられたというそれを
解除するために協力し合う様子が面白く、彼が手を貸すドスケベ催眠術師の仕事が少しも
ドスケベではなく人助けに繋がっているという意外性に興味を惹かれていく展開が印象的。

“沙慈”以外を肉人形にしか思えない“真友”。彼が己のためにこだわる合理的な考え方。
“平助”の存在を超えることに、あるいは受け入れることに意味を見い出すまでの流れは
確かに青春だし、しっかりコメディになっている。色物と侮るなかれ、お薦めの傑作です。

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2023年08月30日

『サイレント・ウィッチ VI 沈黙の魔女の隠しごと』

依空まつり 先生が贈るファンタジー作品。シリーズ7冊目は呪竜騒動の茶番疑惑に迫る
“モニカ”が、彼女を〈沈黙の魔女〉ではないかと疑惑を持つ者たちの対応に追われます。
(イラスト:藤実なんな 先生)

https://kadokawabooks.jp/product/silentwitch/322304000555.html
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_EB03202357010000_68/
https://ncode.syosetu.com/n8356ga/


“モニカ・ノートン”としての自分と“モニカ・エヴァレット”としての自分。知己の人
と接する際に生じる距離感の差異に懊悩する彼女の姿からはもう怯えるだけの昔は窺えず
人として更なる成長しているのが見て取れます。“フェリクス”も似たようなものですが。

身バレの最難関と言える「あの人」に対して怒りを示す“モニカ”の姿も印象深いものが。
彼女自身が景品となった決闘の結果も思いがけない方向へ話が進んでこれがまた見所です。
そんな彼女を支える“バルトロメウス”、何より“イザベル”の気遣いも目を見張ります。

茨の魔女“ラウル”の素っ頓狂、というか浮世離れした言動は七賢人らしいと言うべきか。
“モニカ”の中で“クロックフォード公爵”と父の死を結ぶ線が色を濃くする中、新たな
騒乱の火種を前に無詠唱魔術は力を発揮できるのか。続く展開に注目しておきたい所です。

posted by 秋野ソラ at 00:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2023年08月29日

『勇者症候群2』

彩月レイ 先生が贈る、「勇者」となった者たちを巡る少年少女たちの救世譚。第2巻は
“カグヤ”を監視する女性隊員の登場を機に「勇者を救うこと」の意味を問いかけます。
(イラスト:りいちゅ 先生 クリーチャーデザイン:劇団イヌカレー(泥犬 先生))

https://dengekibunko.jp/product/hero-syndrome/322301000338.html


監査所から派遣された監視員“ハル”が「カローン」の面々と慣れ合う気がないどころか
“カグヤ”を陥れる気マンマンな導入部。それに気後れすることなく、積極果敢に攻める
のが“カグヤ”らしいというか。主張を分からせようとする互いのせめぎ合いが興味深い。

勇者になった人たちは救いを求めているのか。“カグヤ”の行動を聖女気取りと揶揄する
“ハル”の気持ちを認めざるを得ない事態に直面した時の“カグヤ”が葛藤する様は必見。
人と出逢うことでその人に生じる変化、可能性を信じる彼女の意思の強さに圧倒されます。

刀の「クロノス」を失った“アズマ”に出来ること。それの再構築を目論む“研究長”が
気付いてしまったこと。三十年前というターニングポイントに何があったのかを模索する
“カグヤ”が突如陥ってしまった身の危険の意味を求めて、次巻の刊行を待ちたい所です。

posted by 秋野ソラ at 01:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2023年08月28日

『男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 7. でも、恋人なんだからアタシのことが1番だよね?』

TVアニメ化が決定した 七菜なな 先生が贈る青春〈友情〉ラブコメディ。シリーズ8冊目は
運命共同体か恋人か、“悠宇”との望ましい関係を選択した“日葵”のその後を描きます。
(イラスト:Parum 先生)

https://dengekibunko.jp/product/danjoru/322210000096.html


最後に笑うのは自分、と嘯く“日葵”が嵌まる典型的な「策士策に溺れる」の流れがもう
見ていられないほどに痛々しい。兄“雲雀”がそんな彼女の心境を理解しているからこそ
“悠宇”に対して厳しくも適切な助言が与えられるのだと思うと得心がいくというもので。

文化祭でのプロデュース、そして洋菓子店のバイトで“悠宇”の運命共同体(しんゆう)
として実績を積み重ねていく“凛音”が逆に安心して見ていられます。すでにルート確定
ではと思わせるほど。母“雅子”のお茶目な後押しがその流れに拍車をかけるかのようで。

“笹木”先生の動向も見逃せない中、来たるクリスマスで男を魅せた“悠宇”の姿を見て
“凛音”の心に灯がともらないワケがない。そんな彼だからこそ“日葵”のために示した
誠意の言葉も意味を為すというもので。彼女にとって厳しい冬となるか、続きを待ちます。

posted by 秋野ソラ at 00:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2023年08月25日

『大無人島』

作家軽飯のC102頒布作品。カルロ・ゼンさん、蝉川夏哉さん、津田彷徨さん、日向夏さん、
長月達平さん、丸戸史明さん、吉上亮さんが大無人島を舞台に思い思いの小編を綴ります。
(イラスト:輝竜司 さん)

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2026798


まずは午前の枠を乗り切り、午後完売へと繋げた発行部数の見立てに祝辞を申し上げます。
あとがきで蝉川さんが触れている「原稿はすでに出来ていたこと」と「自宅という無人島
で暮らした経験を有している」という文言が、胸に複雑な思いをよぎらせる今回のテーマ。

津田さんがまえがきで述べたアレを受け継いでいるのは長月さんの短編かと思いますけど、
それにしても“マスク・ド・ツーダ”的な人物の出番が多かったような気がしてつい苦笑。
輝竜 さんが描かれた表紙がまさしくそれなんですけど、他にも色々と意味深すぎて喝采。

特に印象的だった短編は、丸戸さんのはやってくれたなというアレな感じでヨシとしつつ、
人がいない島に着目した吉上 さんの作品でしょうか。SF感に溢れていたのが新鮮でした。
一番好きなのは 津田 さんのかも知れません。2人のやり取りが脳内再生できそうな点で。

posted by 秋野ソラ at 00:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 同人誌