2022年07月29日

『EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩の超能力学園OO〈下〉』

川上稔 先生が贈る、とある惑星の天地創造物語。3話下巻は立川で発生した謎の水害を
どうにかするはずが、さらに怪現象も加わって混迷を極める一連の騒動に決着をつけます。
(イラスト:さとやす 先生(TENKY))

https://dengekibunko.jp/product/kamigami/322111000141.html


“ポセイドン”と相対する“団”が持つ策と、それが後々の対応で利いてくる話の構成に
二度驚かされます。“ポセイドン”が「オネエニキ」という設定にもしっかり裏があって、
そこを突いてくる“住良木”が冴えてます。普段は乳のことばかり考えている彼ですけど。

渦中に“TJ”が“バランサー”に示した提案。その意図と実現の難度を察した“宗子”の
一人語りが度々差し込まれる意味。折々で触れられる「コミケ」の話題が牙を剥く展開に
なるのが面白いですし、“TJ”と“宗子”の相対を見届ける“住良木”のやり取りも見所。

話の決着に向けて塀洲夫妻、特に“奮登”が奮起する一連の顛末も「ようやく来たか」と
盛り上がる局面です。要所で“木戸”無双なのはもう驚きませんが、都度圧倒はされます。
“先輩”のうっかりな私生活の乱れで纏まった所から物語がどう続くか注目しておきます。

posted by 秋野ソラ at 01:12 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2022年07月28日

『あおとさくら』

伊尾微 先生の「第14回GA文庫大賞・金賞」受賞作。クラスに馴染めず一人図書館で過ごす
少年と、彼を気にかける屈託ない少女が織り成す青春ボーイミーツガールストーリーです。
(イラスト:椎名くろ 先生)

https://ga.sbcr.jp/product/9784815616281/

高校二年生の春を迎えても放課後になれば公立図書館に通い、一人で読書に勤しむ“蒼”。
ある日、彼と打ち解けたいという少女“咲良”が現われ、何度となく声を掛ける様になる。
「笑ってほしい」と言う彼女に「笑えないんだ」と返す彼。その理由を聞いた彼女は──。

なし崩し的に“咲良”と言葉を交わす仲になった“蒼”が日常生活でも振り回されていく
うちに変わっていく自分がいることに、そして淡い想いを抱いていることに気が付く展開。
まさに青春ど真ん中、こそばゆいです。あるきっかけを境に彼女と音信不通になるまでは。

“咲良”について知らない話が山ほどある。いなくなって愕然と思い知らされた“蒼”が
「彼女が彼を笑わそうとした本当の理由」を告げられて何を思うか、どう動くのかをぜひ
見届けていただきたい。2人がどんな自分の姿を形作っていくか、興味深い所であります。

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2022年07月27日

『スパイ教室08 《草原》のサラ』

2023年のTVアニメ放送に向け準備が進む、竹町 先生の痛快スパイファンタジー。第8巻は
「蛇」そして“白蜘蛛”の執念で窮地に陥る「灯」を目にした“サラ”が覚悟を決めます。
(イラスト:トマリ 先生)

https://fantasiabunko.jp/product/202001spy/322203002018.html


「灯」に対し“アメリ”は冷静に構えるものの、CIM全体としては蔑視の対象でしかなく。
“白蜘蛛”の備えとしてCIMに裏切者がいることを想定する“グレーテ”の打診も響かず。
“モニカ”が問うた「理想のスパイ像」を掴む“サラ”の決意も及ばないのがもどかしい。

“白蜘蛛”が“クラウス”必殺を誓う「人類史上最悪の極罪を犯す」とはどういうことか。
「蛇」の一員となる過程や錚々たるスパイたちを裏切らせてきた能力、そして確執を抱く
決定的瞬間の流れから“クラウス”や「灯」の面々が窮地に陥った理由も得心がいきます。

“モニカ”が「蛇」を倒すために頼れと言った「炯眼」とは誰なのか。かの人物は本当に
「灯」の切り札となるのか。最後まで優劣が入れ替わり、手に汗握る話運びには只々驚嘆。
生き延びた「灯」掴んだ「焼闇計画」の一端がどんな嵐を巻き起こすか、次巻も注目です。

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2022年07月26日

『サマータイム・アイスバーグ』

新馬場新 先生の「第16回小学館ライトノベル大賞・優秀賞」受賞作。三浦半島に突如出現
した氷山を契機にかけがえのない一度きりの夏を経験する少年少女の恋と青春の物語です。
(イラスト:あすぱら 先生)

http://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784094530803


夏は叔父“鉄矢”の家で過ごすのが恒例となった“進”。近所の三浦海岸に現れた巨大な
氷山で世間が大騒ぎする中、浜辺に倒れている少女を助けた彼はその姿を見て言葉を失う。
交通事故で昏睡状態にある幼馴染“天音”の小さい頃に瓜二つな彼女は一体誰なのか──。

「“天音”=“日暈”」という可能性を求める“進”。彼の想いを前に卑屈になる“羽”。
彼女の思慕を配慮して、“天音”不在でも3人で過ごせる夏という道を模索する“一輝”。
ちぐはぐな3人が“日暈”に振り回されながら過ごす日々の様子が、どこかもどかしくて。

氷山の謎を探る人々の思惑が“進”たちを巻き込み、散逸していた物語の要素が結びつけ、
構築されていく少し不思議な世界観の中で各々が「夏の主役」を全うしていく展開は圧巻。
また冒頭と結末で思いを馳せる「私」に哀愁を覚えずにはいられない。お見事な一作です。

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2022年07月25日

『わたしはあなたの涙になりたい』

四季大雅 先生の「第16回小学館ライトノベル大賞・大賞」受賞作。全身が徐々に塩化する
奇病で母を喪った少年が出会う少女との数奇な縁を描く涙で始まり、涙で終わる物語です。
(イラスト:柳すえ 先生)

http://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784094530810


福島県郡山市にある小学校へ通う“八雲”が、塩化病に罹った母の欠損していく体を見て
その「空白」を埋めようと日々模索する中、校庭でピアノの美しい音色を耳にする。彼は
向かった音楽室で目を奪われるほど美しい少女“揺月”と出会い、絆を深めていくが──。

母の死を機に厭世的になる“八雲”を支える“揺月”。彼女もまた孤独に苛まれる環境に
あって慰める彼。惹かれ合いながらも、ピアニストとして有望な彼女のこと、自身の父と
生い立ちに引け目を感じる彼の心情が分かるほどに、彼女の抱く悲しみと相まって切ない。

“八雲”と“揺月”が歳を重ね、3月11日に故郷も絆も揺らされ、喜びも悲しみも共有し、
音楽に救われながら、やがてあの秘密基地へと還っていくプロローグの余韻は圧巻の一言。
「わたしはあなたの涙になりたい」という魔法の言葉がもたらす奇跡を、ぜひご高覧あれ。

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