2020年12月10日

『むすぶと本。 『嵐が丘』を継ぐ者』

野村美月 先生が贈るビブリオミステリー。シリーズ3冊目は“むすぶ”が本にまつわる
騒動に関わっては“夜長姫”に怨嗟の声を浴びる様子を描きつつ2人の奇縁に迫ります。
(イラスト:竹岡美穂 先生)

https://famitsubunko.jp/product/musubutohon/322008000125.html


「小僧の神様」に纏わる逸話は書店を運営する上で忌避できない大事な問題を扱っており
“悠人”の存在に救われる思いがしました。老いも若きも、男も女も、本好きの心を掴む
“むすぶ”に気が気でない“夜長姫”と、中々報われない“妻科”には同情するばかりで。

「『嵐が丘』を継ぐ者」では“悠人”から妹“蛍”が本に罹患しているのでは、と相談を
持ち掛けられた“むすぶ”が鍵を握る本の声を聞こうとして、まさか言葉が通じないとは。
そこから想いを汲み取り、“蛍”の悩みと真摯に向き合いながら答えを導く展開がお見事。

“蛍”の心に芽生えた感情を察して早々に“むすぶ”へ苦言を呈する“悠人”の本気度は
いかほどか。それを察しきる間もなく『夜長姫と耳男』、“むすぶ”と“夜長姫”を結ぶ
縁は一筋縄ではなさそうな雰囲気を匂わせる引きが気になるので続きをお願いいたします。

posted by 秋野ソラ at 00:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2020年12月09日

『殺したガールと他殺志願者』

森林梢 先生の「第16回MF文庫Jライトノベル新人賞・優秀賞」受賞作。最愛の人から命を
奪われたい少年が最愛の人を殺したい少女と出会い、共に願いを成就する道を模索します。
(イラスト:はくり 先生)

https://mfbunkoj.jp/product/killme_girl/322008000666.html


廃屋の屋上で死神を自称する女性に声を掛けられる“水面”。君の望みを叶えてあげると
紹介されたのが“みぎり”。殺してあげる代わりに私にとって最愛の人になってほしいと
告げた彼女は、彼を自分好みに仕上げるべく早々に様々な場所へ連れまわしていくが──。

歪んだ願い。捻じれた感情。でこぼこな2人が共に抱える心の傷を持ち寄り、寄り添い、
やがて恋人らしい関係へと絆を深めていく。けれども2人の先に待つのは“水面”の死。
では「その先は?」となった時に互いの気持ちがどう揺れ動くのか。この描写が絶妙で。

“水面”や“みぎり”だけでなく周囲の人物や自称死神の女性に至るまで独特の感性を
持つ方々で占められていることもあり、世界観に没入しやすい雰囲気作りも実に好感触。
きな臭い展開をくぐり抜けた先に2人が選んだ道は微笑ましさすら覚えます。お薦めです。

posted by 秋野ソラ at 00:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2020年12月08日

『パワー・アントワネット』

「第12回GA文庫大賞・銀賞」を受賞した 西山暁之亮 先生が受賞作の刊行前にTwitterで
バズったWeb小説を書籍化。フランス革命を逆転させる王妃の力をキレッキレに描きます。
(イラスト:伊藤未生 先生)

http://www.sbcr.jp/products/4815608231.html


時は革命の奔流が渦巻くフランス。革命軍に押され、民衆の罵声を浴び、断頭台へと一人
送られる“マリー・アントワネット”。ギロチンの刃が落ちる刹那、彼女の筋肉が増大し
刃を止め、断頭台を爆散させる。まさに彼女が筋肉(フランス)となった瞬間である──。

Twitterで発生した流れは途中から拝見しておりました。史実をもとにこれでもかと話を
勢いだけで押し通す本作の魅力が書籍化されたことで、より洗練されたようにも感じます。
筋肉ばっかり言ってるかも知れませんが、ちゃんと運命に抗う筋道も立てられております。

“マリー”の志に賛同して次第に集まっていく仲間たちが、真なるフランスのための障壁
となる悪を討つ活劇をお楽しみいただくと共に、その歴史をどこまでも中立でありたいと
願い、見届けてきた“サンソン”の気概にもぜひご注目のほどを。お薦めできる一冊です。

posted by 秋野ソラ at 01:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2020年12月07日

『精霊幻想記 18.大地の獣』

ついにTVアニメ化が決定した、北山結莉 先生が贈る異世界転生譚。第18巻は“エリカ”に
攫われた“リーゼロッテ”の奪還に臨む“リオ”が聖女と対峙し、その真意に迫ります。
(イラスト/Riv 先生)

http://hobbyjapan.co.jp/hjbunko/lineup/detail/935.html
https://hobbyjapan.co.jp/comic/series/seireigensouki/
http://seireigensouki.com/


神聖エリカ民主共和国。攫われた“リーゼロッテ”が探りを入れようと接触を図る宰相
“アンドレイ”。彼とのやり取りから一筋の光明が見えたかのような流れすら利用する
“エリカ”が抱える闇の深さに唖然としますし、翻弄される民草に同情を禁じ得ません。

問い質した“リオ”が“エリカ”の回答に驚く様子も納得ですし、彼を力でねじ伏せに
かかるあの姿は悪役そのもの。こういう憎たらしい悪役を見事に描けるのが先生らしさ
かもしれないと、ここまで本作を読んで感じる今日この頃です。展開が実にもどかしい。

“エリカ”が見せるその力に「勇者」の謎が見え隠れし、“レイス”はその姿を冷静に
分析する中、それでも諦めることはない“リオ”の力強さに応援したい感情が募ります。
国を挙げ、世界を巻き込んでの復讐劇にどう立ち向かうか早く続きが読みたいものです。

posted by 秋野ソラ at 00:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2020年12月04日

『おいしいベランダ。 あの家に行くまでの9ヶ月』

竹岡葉月 先生が贈る大好評・園芸ライフラブストーリー。第9巻は遠距離恋愛を始めた
“まもり”と“葉二”の間に発生するトラブルの連続に迫る結婚への危機感が募ります。
(イラスト:おかざきおか 先生)

https://lbunko.kadokawa.co.jp/product/oishiiberanda/322005000606.html


後輩“福武”の自炊問題を解決する“まもり”の言動から、すっかり“葉二”に毒されて
いる雰囲気がひしひしと伝わります。その一方で、文字や写真だけでは伝わらない感情と
そのすれ違いにヤキモキする遠距離恋愛の難しさも滲ませて思わずハラハラさせられます。

結婚を前に顔合わせを行う2人がひと悶着を見せる中、“ユウキ”が一大決心を披露する
その気概には「頑張れ」と応援したくなります。結婚式って、男性が決めることは本当に
少なくて、それ故に“まもり”が“葉二”の反応に気を揉む姿も得心がいくというもので。

そこへ“葉二”の油断からくるあの一面で、破局してもおかしくない展開を迎えた2人が
園芸を通じて、おいしいごはんを通じて、しっかり深いところで根付いているんだな、と
見せつけてくれたのが実に素敵で、心から安堵しました。物語を締め括る次巻を待ちます。

posted by 秋野ソラ at 00:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル