2020年11月23日

『百合に挟まれてる女って、罪ですか?』

ガルコメで名を馳せている みかみてれん 先生が鳴り物入りで「電撃文庫」作家デビュー。
組の抗争を担う少女2人に巻き込まれる一般女性の振り回され、揺れ動く機微を描きます。
(イラスト:べにしゃけ 先生)

https://dengekibunko.jp/product/322007000091.html


神枝組と久利山組。女組長が束ねる両組織が抗争の果てに選んだのはハニートラップ勝負。
前者は男を虜にする手練手管に長けた娘“楓”が務め、因縁の幼馴染“火凜”と対決する。
対象は一般女性の“茉優”。面識も、女を篭絡する技術もない“楓”は唖然とするが──。

「トクベツな人になりたい」と夢見た“茉優”の理想と現実の乖離に悩む日々に胸を痛め、
彼女のバイト先へ潜った“楓”の言動と葛藤に癒され、“火凜”の絡む姿にニヨニヨして。
更に2人に決断を迫られ、どちらも好きだと応える隙だらけの“茉優”にヤキモキします。

そもそもなぜ“茉優”が対象として選ばれたのかもちゃんと理由付けがされていますし、
“楓”や“火凜”がこの勝負に挑むだけの裏付けもありますし、コミカルなだけではない
面白さが詰まっています。この罪をどう清算するのか、3人の行く末が見てみたい所です。

posted by 秋野ソラ at 00:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2020年11月20日

『続・魔法科高校の劣等生 メイジアン・カンパニー』

佐島勤 先生が贈る魔法科高校を卒業した“達也”たちのその後を描く新シリーズ第1巻。
魔法資質を持つ者すべての人権保護に乗り出す“達也”に対し敵も味方も視線を集めます。
(イラスト:石田可奈 先生)

https://dengekibunko.jp/product/mahouka/322003000189.html


魔法因子を持つだけで一般人とほぼ変わらない人も魔法師同様に様々な制限が課せられる。
彼らの人権を守るため、実行組織として“達也”が設立した「メイジアン・カンパニー」。
戦略級魔法を扱う彼の思想は本音か建前か、世界を股に掛けた腹の探り合いが始まる──。

似て非なる結社「FEHR」から送り込まれた“遼介”のちょっと抜けた感じの言動が、彼を
糸引く“レナ”の真意を掴ませないための隠れ蓑なのでは、と感じさせるほどヘッポコ。
“光宣”と“水波”がよろしくやっている中、“リーナ”が新たな緩衝材になるのを期待。

同じく“真由美”のように人を送り込んで探りを入れる者もいれば、今回現れた賊の様に
実力行使に訴え出る者もいる。その辺のあしらいは“達也”や新たな力を示した“深雪”
からも「らしさ」が窺えて興味津々な展開。思惑が絡み合い次巻でどう動くか要注目です。

posted by 秋野ソラ at 00:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2020年11月19日

『バケモノたちが嘯く頃に 〜バケモノ姫の家庭教師〜』

竜騎士07 先生が「LINEノベル」にて書き下ろした新作を「電撃文庫」から刊行した作品。
人の臓腑を食む少女の家庭教師となった男性が、村で起こる連続失踪事件の謎に迫ります。
(イラスト:はましま薫夫 先生)

https://dengekibunko.jp/product/maougakuin/322006000026.html


終戦後もなお名家として御首村に在り続ける御首家。その令嬢はいま、幽閉されている。
本来美貌なはずの彼女は死臭にまみれ、ハラワタを喰らいバケモノと呼ばれる忌避の対象。
そんな“茉莉花”の家庭教師として現れた“磊一”はおくびもせず親近感すら覚えて──。

“磊一”に「バケモノ」と「ケダモノ」の違いを諭される“茉莉花”が年相応の少女性を
発露していく様子が可愛らしい。惨虐な描写の数々が繰り広げられる反動かも知れません。
更に惨劇の担い手は別にいる、という「バケモノ」にまつわる謎解きの展開もまた面白い。

あとがきを読んで、ある母集団から外れた特異な存在と自認する者の象徴として描かれる
「バケモノ」という存在が印象深く心に残りました。戦後間もない日本という舞台装置も
上手く嵌っていたように感じます。“茉莉花”の挑戦、それが実る時がくるのを祈ります。

posted by 秋野ソラ at 00:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2020年11月18日

『ボクは再生数、ボクは死』

石川博品 先生が贈る新作は、VR空間で出会った高級娼婦へ通うため動画配信で金を稼ぐと
決めた青年が陰謀に巻き込まれていく顛末を描くエロス&バイオレンス・ストーリーです。
(イラスト:クレタ 先生)

https://famitsubunko.jp/product/saiseisuu/322007000039.html


VR空間で娼婦に入れ込む“狩野”は、会社の先輩“斎木”にそのことを知られてしまう。
大金が必要な彼は、一緒に動画配信者となることで荒稼ぎすることを彼女から提案される。
もちろんすぐに上手くいく訳はないがある日、思いがけず撮れ高を稼ぐことになる──。

男性がVR空間でしたいことをこれでもかと詰め込んだ“狩野”の人物像。“シノ”として
人気を集め、仲間も出来て、因縁やしがらみも絡んで、いつしかバトルものを読んでいる
かのように錯覚する展開を、あの娼婦に纏わる逸話で本筋に引き戻されるのが印象深い。

娼婦のために再生数を稼ぎ、娼婦を通じて死をその肌で感じた“狩野”が最後に選んだ道。
“シノ”が“狩野”を見たらどう思うか、というまるで自分の中に別人格がいるかの如き
思考が「あり得る可能性」を押さえている気がしていろいろと考えさせられる結末でした。

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2020年11月17日

『君が、仲間を殺した数 −魔塔に挑む者たちの咎−』

『賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求』シリーズの 有象利路 先生が贈る新作。
空にも届く塔の頂へ挑む者たちを犠牲にする超常の力を授けられた少年の命運を描きます。
(イラスト:叶世べんち 先生)

https://dengekibunko.jp/product/mato/322006000037.html


“スカイツ”は孤児院育ちの仲間と共に塔へ挑むギルドの若き一員。ある日、リーダーが
単独で塔に昇ったと知り、仲間と共に追いかけた最中、塔の異変に巻き込まれ命を落とす。
だが彼は生きており、謎の声が囁きかけることに加えて、ある重大な異変に気が付く──。

ダークファンタジーと銘打つだけあってテーマが重い。冒頭にある「断章」の描写、又は
表紙の痛ましい姿が現実のものとなるまでの、約束された絶望への過程を描く構成が見事。
塔に昇りたくないのに登らざるを得ない状況に追い込まれる“スカイツ”の悲愴感たるや。

もう失いたくない“スカイツ”が手に入れてしまった能力を使い、“クロヤ”の手助けを
借りて彼が“イェリコ”に抗い続けた結果として「あの人」を見咎めたもう一つの違和感、
このえげつなさがまた秀逸で。彼が踏み入れた修羅の道、その果てを見てみたいものです。

posted by 秋野ソラ at 01:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル