2020年02月07日

『詐欺師は天使の顔をして』

斜線堂有紀 先生が贈る新作は、世間を欺く霊能力者を仕立て上げて荒稼ぎしていた男が
突如失踪したパートナーの行方を追う中で巻き込まれる騒動を解決していくミステリです。
(イラスト:Octo 先生)

http://taiga.kodansha.co.jp/author/y-syasendo.html#link9784065182345


“子規冴昼”。“要”の共犯者であり稀代の霊能力者としてTVにも引っ張りだこな彼が
突如失踪してから3年。未だに彼以上のパートナーを見つけられずにいる“要”の元に
“冴昼”から電話があり、変わらぬ口調で殺人の冤罪を着せられそうと告げてきて──。

「超能力者の街」では“冴昼”が失踪した先の世界で、レギュレーションが変わろうとも
見事な共犯ぶりを魅せつける“要”のバディ要素がまず面白い。なぜ“冴昼”は異世界に
次々と渡ることになるのか、そして“要”は元の世界に取り残されるのかが気になります。

「死者の蘇る街」では、同じ境遇にある2人組が巻き込まれた事件とその経緯を踏まえて
“冴昼”と“要”が互いの関係に対してどんな想いを、そして強い覚悟を抱いているかが
窺えて興味深い。そんな2人の関係を追い求めてみたいと思えるエピローグも良いもので。

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2020年02月06日

『君を失いたくない僕と、僕の幸せを願う君』

神田夏生 先生が贈る新作は、幼なじみへの恋心に気付いた少年が彼女からの思いがけない
告白を皮切りとして繰り返す夏の記憶と残酷な運命に抗おうとする顛末を描く恋物語です。
(イラスト:Aちき 先生)

https://dengekibunko.jp/product/321907000706.html


家が隣同士。帰宅部で下校も一緒。“一陽”と共に過ごす日常を悪くないと思う“蒼”は
ある日、駄菓子屋で級友のお嬢様“涼夜”と出会う。意外に話せる彼女との恋を画策する
“一陽”の変化に余命何年の泣ける映画ヒロインみたいな事態が? と疑念を抱くが──。

「私は、そうちゃんを、幸せにできないんだよ」と涙する“一陽”を襲う運命のいたずら。
共に居る時間が愛おしい、ただそれだけの2人が掴めない幸せな未来。その絶望感たるや。
痛ましい姿を見せる“蒼”に“涼夜”から掛けられる優しくも残酷な想いの難しさたるや。

オカルト部に所属するもう一人の幼なじみ“葉介”の意味深長な言葉に翻弄されながらも
残酷な運命に抗い続けた“蒼”、そして“一陽”がどんな結末をたぐり寄せるか。2人を
見届け続けた「彼女の記憶」も興味深く、幸せになれる読了感も含めてお薦めの一作です。

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2020年02月05日

『失格世界の没落英雄』

北山結莉 先生の「小説家になろう」投稿作が書籍化。天啓によって魔眼のスキルを得た
王子が研究施設に囚われ、数奇な運命に翻弄される顛末を描く異世界ファンタジーです。
(イラスト:nana 先生)

https://mfbunkoj.jp/product/sikkaku/321909000815.html
https://ncode.syosetu.com/n5441fu/


婚約者“モニカ”と初めて対面する王子“シオン”が不愛想なのは友だちがいないから。
そんな事情は知らない彼女から積極的に会話を持ち掛けられ彼は少しずつ絆されていく。
幸せな日常は彼女の失踪、そして彼が持つ稀有な能力が元で崩れ去っていくのだが──。

突如示されるレベルの概念、システマチックな演出。華やかな生活が驚くほどに一転して
奴隷のように扱われる“シオン”の身の上は痛々しくて見ていられないほど。逆境を覆す
一手を掴み取れたかと思えば、残酷な事実を次々と突きつけられていく苦境が続きます。

唯一の救いとなる“リィエル”との旅路。可愛らしく無垢な彼女とのやり取りは見ていて
微笑ましく、今後どう成長していくのか、どんな命運を背負っているのかが楽しみな存在。
更に“シオン”が目の当たりにする元の生活にある違和感が何を意味するか気になります。

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2020年02月04日

『今はまだ「幼馴染の妹」ですけど。 せんぱい、ひとつお願いがあります』

涼暮皐 先生が贈る新作は、奇跡を起こす「星の涙」という都市伝説がある街に住む少年と、
彼の幼馴染の妹で自称・あざとい小悪魔系少女が再会する所から幕を開けるラブコメです。
(イラスト:あやみ 先生)

https://mfbunkoj.jp/product/osaimo/321909000814.html
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893471809
https://kakuyomu.jp/users/kuroshira


「星の涙」でいちばん大事なものを取り戻せる代償として、二番目に大切なものを失う。
それでも願いを託し、叶えたいという想いは後を絶たない。感情が氷点下と揶揄される
“伊織”はウザ絡みしてくる“灯火”にその裏があると見抜いた彼は阻止を図るが──。

人の気持ちが分からない。数々の言動から周囲にそう思われている“伊織”を執拗にも
敵視する“与那城”。なぜそこまで、と思いつつ読み進めるともう一人の幼馴染である
“陽星”の「あの挨拶」からその違和感、「星の涙」の残酷さを味わわせる展開に驚愕。

“灯火”が“伊織”を「伊織くんせんぱい」と呼ぶ、それすら彼女の願いに基づくもの
と分かった時は「流石は涼暮先生」と思うばかり。彼女が彼女らしくある事を祈りつつ、
読者にも人の心とは何かを問いかけるこの物語を皆さまにも見届けてほしいと願います。

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2020年02月03日

『スパイ教室01 《花園》のリリィ』

竹町 先生の「第32回ファンタジア大賞・大賞」受賞作。スパイが暗躍する影の戦争が主軸
となった世界で落ちこぼれのスパイ候補たちが死亡率9割とされる不可能任務に挑みます。
(イラスト:トマリ 先生)

https://fantasiabunko.jp/product/202001spy/321909000804.html


世界大戦で勝ち負けに関わらず各国が大きな被害を出し、スパイの情報戦が中心となる世界。
戦争で被害を受け、その育成に力を注ぐ国の養成機関で落第寸前の評価を受ける“リリィ”。
彼女がなぜか配属された不可能任務を専門に扱うチームには同じような少女たちがいて──。

チーム「灯」に集められた少女たちを率いる“クラウス”は「世界最強のスパイ」を名乗る
優秀な人物。でも教官としては難あり。早々に見限った“リリィ”が秘儀を使っても倒せぬ
彼が提示した「僕を倒せ」という教育方法。あの手この手を尽くす彼女たちだが及びもせず。

死と隣り合わせの不可能任務が始まる時、彼女たちは達成できるほど成長を遂げられたのか。
「スパイは常に嘘をつく」冒頭の一文を見事に体現する、攻守入り乱れて二転三転する物語。
「──極上だ」“クラウス”の言葉を借りて評価に値する作品かと思います。オススメです。

posted by 秋野ソラ at 00:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル