涼暮皐さんの「失恋構文」に端を発する企画が実を結びアンソロジーとしてC96にて頒布。
人気ライトノベル作家たちが集結して「失恋」をテーマにした思い思いの物語を綴ります。
(イラスト:おしおしお さん)
【 https://note.mu/wataruumino/n/nd51f9d320814 】
「灰色青春は傷つかない」(雨宮和希 さん)
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中高のバスケ部でマネージャーを務める幼なじみの“京華”よりもバスケを選んだ“蒼”。
夢破れ、大学のサークルで“由美乃”と付き合うも“京華”への想いを引きずり別れた彼。
改めて想いを伝えるも時すでに遅し。それでも前向きな姿勢を示してくれたのが救いです。
「ずっと一緒な君と僕」(北山結莉 さん)
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幼なじみの“理香”が好きな“良太”が、彼女に釣り合う男になろうと努力し、成人式を
迎えた日に婚約するまでに至る。そして結婚生活まで見据えてお金を貯めようとする彼の
心意気は美談なのに報われず、人生すら棒に振るような結末が只々虚しくて、切なくて。
「乗り換えは君のいた大宮で」(ゆうびなぎ さん)
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バスケに打ち込む“朝斗”に惚れた“りん”が失恋するまでを描く小編。バスケを辞めた
彼への想いが冷めていく彼女の心の隙間を狙うかの様に現れた“夕陽”。靡く彼女に対し
サッと身を引く“朝斗”。共に大宮での経験を胸に生きていく所もまた青春なのでしょう。
「独り占め。」(しめさば さん)
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隣の家に住む幼なじみの“アキ”に恋心を抱く“ユキ”だが彼の想い人は彼女の姉である
“ナツ”。三者三葉の視点をもとに恋心のベクトルを描きながら、迂闊に決定的な瞬間を
迎えた3人が選ぶ結末。“ユキ”の心情が描かれていないのが空恐ろしいとも感じます。
「『シラノが想いを告げる時』」(子子子子子子子 さん)
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“白乃”と“縫奈”は小学校から続く女友達。いつしか“縫奈”に恋心を抱く“白乃”に
剣道一筋の“聖人”が「“縫奈”と付き合いたいので協力してほしい」とお願いされる。
戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」になぞらえる彼女の決断と結末が現実的で儚いです。
「ホンメイ*ログアウト」(ゆうびなぎ さん)
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「わたしと浮気……してみない?」同じ予備校に通う“未卯”に持ち掛けられた“明治”
には“真央”という彼女がいる。しかし、彼女の恋心に重さを感じていた彼に“未卯”の
誘いは甘言、渡りに船。そして迎える決定的な瞬間、イブの日。浮気はだめですよ浮気は。
「昔の私へ」(屋久ユウキ さん)
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アラサーという時期を迎え、未だ独身で彼氏もいないある女性が過去の自分に対して手紙
という形で数々の男性遍歴を綴りつつ、その生き方に至った心境を自己分析していく小話。
卑下しながらも自分のことが好き、と言及する彼女に幸せは訪れるのかは、神のみぞ知る。
「虚無・A」(涼暮皐 さん)
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高嶺の花である“鹿倉”に告白し、あっさりと断られた“翔”の恋は終わったはずなのに
何故か続く彼の恋わずらい。まるで筆者が語るかの如き文面から描かれる彼の愚かな行為、
その果てに迎える興味深い結末。「失恋」の扱い方に一日の長あり、と感じさせられます。
総括
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幼なじみヒロインはなぜにこうも立場が弱いのか。その謎を追求するのはひとまず置いて
同じテーマに合わせて短編を寄せあうことで、これだけ得体の知れないエネルギーを形成
できたこと、また読み手に共感や絶望を味わわせた実績は評価に値すると言えるでしょう。
担当編集の羽海野渉さん、緋悠梨さんも過去に言及されていた通り、読んだ短編を契機に
気になった作者がいらっしゃいましたら読者の皆さまにおかれましてはぜひ商業作品にも
手を伸ばしてほしい所で。それがアンソロジーの醍醐味でもあり、私の願いでもあります。
さらに願わくば、ライトノベルでは中々に定着しない「アンソロジー」の文化を、同人誌
という特殊な切り口ではありますが、「失恋文庫」が突破口となってくれたらと思います。
そうそう、「普通に生きてたら失恋なんてしない」という点は読む上でご考慮下さいませ。