2019年09月30日

『コールミー・バイ・ノーネーム』

斜線堂有紀 先生が贈る新作は「名前当て」ミステリー。ゴミ捨て場で拾った美しい女性に
惹かれていく女学生が、友達になるため彼女の「本当の名」と過去を探る経緯を描きます。
(Illustration/くわばらたもつ 先生)

https://www.seikaisha.co.jp/information/2019/08/28-post-clmn.html


奔放な性生活と無法な横恋慕。一宿一飯の恩義を体で返そうとする“古橋琴葉”に関する
ことは数少ない。そんな彼女から提示された「付き合っている間に自分の本名を当てたら
友達になってあげる」という話に乗った“愛”は世にも奇妙な同居生活を始めるが──。

改名する、その意味を交際する過程で探る“愛”自身にも一つの問題が存在する。それは
「なぜ“琴葉”を助けたのか」という点。善意の先に芽生えた感情を証明しようともがく
“愛”の気持ちを受け止め、それでも本名の「呪い」に苦しむ“琴葉”が示す拒絶は悲痛。

未希が“愛”のことを「光人間」と称したその意味も、読み終える今ならわかる気がする。
共に「何か」を証明する難しさ、やるせなさを痛感してきたからこそ繋がる2人の心と体。
名前当てが終わるその先に、“琴葉”の感情を証明する“愛”が居続けてほしいものです。

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2019年09月27日

『ここは書物平坂 黄泉の花咲く本屋さん』

新井輝 先生が贈る新作はあやかしもの。死の淵に立つ人へ未練ある本を提供する地獄の鬼
が店長を務める書店、そこを訪れた本好きな女性が辿る数奇な運命と縁の変遷を描きます。
(イラスト:紅木春 先生)

https://lbunko.kadokawa.co.jp/product/321809000748.html


黄泉比良坂。死者の住む世界へと続く坂の名と聞き間違える書店で和装の男性店長が言う。
「無事に帰りたくばワゴンの中から本を一冊買うことをお薦めする。お代は言い値で」と。
上司の失敗を押し付けられ失意の“奈美”は子供の頃何度も読んだあの本を手に取る──。

本で失敗し、本を断って生きてきた“奈美”が今また本に救われ、本で人を救っていく。
店長の厚意で住み込みのバイトを始め、好意を示されて困惑したり。取引先の若社長に
助けられ、意外な縁から誤解を与えたり。冒頭からは窺い知れない彼女の豪胆さが面白い。

前向きに生きていけるようになった“奈美”の上司、“山田”課長がまた嫌味な人物で。
彼が本を通じて因果応報な結末を迎えることに胸がすく思いを覚えるのはお許し頂きたい。
プロローグを読み返すとまたニヤリとできて、心温まる読了感が味わえるのでお薦めです。

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2019年09月26日

『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った? Lv.20』

聴猫芝居 先生が贈る、残念で楽しい日常≒ネトゲライフ。第20巻は“杏”の受験シーズン
真っ只中の間に“亜子”が猛烈なプロポーズ攻勢を仕掛け“英騎”がタジタジとなります。
(イラスト:Hisasi 先生)

https://dengekibunko.jp/product/netogeyome/321906000045.html


「リアルでもルシアンにプロポーズしたい!」と強く主張する“亜子”。リアルとゲームに
違いなんて無い、と言っていたはずの彼女を前に“英騎”や周囲も困惑の色が隠せない展開。
グイグイくる彼女を前に断り続ける彼の、鉄壁の意志が少しずつ削られていく様子が面白い。

“亜子”の攻勢にゲーム部の面々が次々と陥落し「仲魔」として“英騎”を裏切っていく中
“茜”だけが2人の無意識とも言える心境を見抜き、考えさせる助言を残していくのが流石。
というか“杏”は受験中にも関わらずゲームもしていて結果も残しているのがある意味凄い。

“亜子”と腹を割って話し合った“英騎”が彼女からのプロポーズを断り続ける真の理由に
気付いて打ち明ける場面は彼らしくてこそばゆくて思わずニヨニヨしてしまいます。そんな
幸せな2人の雰囲気に水を差すかのような引き具合にゲーム部はどう向き合うのか注目です。

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2019年09月25日

『29とJK7 〜さらば、憧憬〜』

裕時悠示 先生が贈る禁断の年の差ラブコメ。第7巻は小説コンテストで受賞した“花恋”
を見て喜ぶのも束の間、“鋭二”は彼女の小説家デビューを前にとある決意を迫られます。
(イラスト:Yan-Yam 先生)

http://www.sbcr.jp/products/4815603236.html


“花恋”を待ち受ける改稿の試練。カリスマ編集者“御旗”からはグラビアに出ないかと
提案されたり、悩ましい局面を迎えます。“綾”もニュース映像でインタビューの様子が
流れて期待の超新星と賞賛されるも予算の話が悩ましく、仕事に追われる日々が続きます。

改稿中の原稿に目を通した“真織”が感じた違和感を皮切りに、“沙樹”から告げられた
“花恋”のサブ担当“棟方”にまつわる悲愴な過去、さらに会社の要職に就く立場として
見逃せない話が明らかに。“鋭二”が募らせる“御旗”への不信感が爆発する瞬間が熱い。

「面白ければ、すべてOK!」と豪語する“御旗”の心意気、その表と裏を見せつけられた
展開には昨今の出版事情、社会人としての立場、ラノベに対する愛着など、感情が複雑に
入り混じって考えさせられました。“花恋”を守るために戦う“鋭二”の健闘を祈ります。

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2019年09月24日

『Unnamed Memory III 永遠を誓いし果て』

古宮九時 先生が贈る、魔女と王の一大叙事詩。第3巻は“オスカー”との契約期限を迎え
“ティナーシャ”は自身も驚くほどの心情の変化と、運命の変遷をその身に受け止めます。
(イラスト:chibi 先生)

https://dengekibunko.jp/product/unnamed/321810000951.html


100ページの挿絵! ということですっかり“オスカー”に毒された“ティナーシャ”の姿、
そして表紙の美麗な2人を見て安堵していたら、最後で書き換わる運命に驚嘆するばかり。
これはAct2に繋げなかったらKADOKAWAに抗議文を出すレベルでした。その意味では有難い。

ガンドナの建国記念式典で耳にしたヤルダの王女が行方不明との知らせから感じる不穏な
動向、そして呼ばれぬ魔女“レオノーラ”の暗躍と悪意に気が付いた“ティナーシャ”の
見せる明確な殺意。魔女対魔女の戦い、そしてパートナー同士の戦いは只々圧巻のひと言。

魔所の時代が終わりを告げる時、“オスカー”が脳裏に描いたあの形象。もたらした結果。
名も無き追憶の果てに涙を流した“ティナーシャ”が運命を書き換えてくれると、そして
長月達平 先生が巻末に寄せたあの言葉を痛感できる完結の時が迎えられると信じてます。

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