2018年09月07日

『じゃがトマ警察の生理学』

頒布早々に完売という伝説を残した『作家軽飯』に続きカルロ・ゼンさん、蝉川夏哉さん、
津田彷徨さんが贈る「コミックマーケット94」の新刊は世にある助言者たちに言及します。
(イラスト:赤嶺明美 さん)

http://www.tasty-3.com/posts/4689615?categoryIds=1019327


作品への指導という名の愛なき批判に対して創作者たちはどう向き合うべきか。筆を折る
ことのないように「じゃがトマ警察」を分析し、対策を提示し、その先の可能性に触れる。
各々の文体とそれを活かすデザインで構成される内容は創作者のためになることうけあい。

また、創作物を消費者としてどう受け止めるべきか。襟を正したくなる思いに駆られます。
指南書のようなカルロ・ゼンさんの「殺し方」、じゃがトマ警察という存在に触れていく
蝉川夏哉さんの「症例報告」、論文調な津田彷徨さんの「治療戦略」、どれも興味深い。

奇しくも書きたい内容が被った本作、次回はぜひ蓄積された「作家軽飯」リストに基づく
新たな隠れ家に言及する話が読みたいところです。暁なつめさん提供のフリーペーパーは
迫りくる〆切を前にした心境と、合間に食べるメニューの「我関せず」感が絶妙でした。

posted by 秋野ソラ at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 同人誌

2018年09月06日

『ヒトよ、最弱なる牙を以て世界を灯す剣となれ グラファリア叙事詩』

上総朋大 先生が贈る新作は戦記ファンタジー。人間より他種族が優位となった世界で奴隷
としてヴァンパイアの下で過ごす少年が、人が人として生きるための国作りを目指します。
(イラスト:細居美恵子 先生)

http://www.fujimishobo.co.jp/bk_detail.php?pcd=321803001764


エーテルを操る能力を持つ人間の希少種である“ジノ”は、今やヴァンパイアに血を提供
するだけの存在。野心を抱く彼は、かの国の跡継ぎ問題で後れを取る“ヘネシー”に目を
つける。市井で酒に明け暮れると噂の彼女、彼と同じく只者ではない人物と見抜くが──。

“ヘネシー”をいわゆるパトロンとして貪欲に知識を吸収した“ジノ”が、彼女の領地を
次々と改革していく手腕や“ヴィオラ”や“ライバー”たちを手玉に取るやり口が見事。
その努力の影に、彼が野望を共に抱いた仲間との悲しい過去に苛まれる様子が痛々しい。

活躍に目をつけられた“ジノ”が対面した“ヘネシー”の父であり大公の威風とは真逆に
金の亡者たる兄の“ワーテイス”が次代を担うのかと思うと辟易する中、父の後継争いに
巻き込まれる“ジノ”たちがどう窮地を乗り越えるかが見所で、続きが楽しみな物語です。

posted by 秋野ソラ at 00:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2018年09月05日

『お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ。』

凪木エコ 先生が贈る新作は青春ラブコメ。一人で過ごす時間を何より楽しむ男子高校生が
思いがけず校内の美少女たちにおひとり様ライフを脅かされることになる顛末を描きます。
(イラスト:あゆま紗由 先生)

http://www.fujimishobo.co.jp/bk_detail.php?pcd=321803001768


独りが好き。そう思って憚らない“春一”は落ち着ける静かな場所を求めて校内を彷徨う。
とある筋から教えられた空き教室を見つけた彼は担任に咎められ、交換条件を提示される。
クラスの親睦会で幹事をする彼に追随してきたのがなぜか校内のアイドル“華梨”で──。

「独りってそんなにダメなことなんですか?」と嘯く筋の通った“春一”の言動が印象的。
「できない」のではなく「しない」というのがまたズルい。うらやまけしからんヤツです。
幹事をするのは友だち作りのためだ、と勘違いした“華梨”の振り回されっぷりが面白い。

“春一”にべったりな妹の“ゆず”や、何かと嗜好が合う“英玲奈”にも付き合わされて
独りの時間を奪われていく彼が、親睦会の幹事を務めることで変わる所、変わらない所を
見届けてみるのも一興かと思います。“華梨”の頑張りぶりもぜひ応援してあげて下さい。

posted by 秋野ソラ at 00:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2018年09月04日

『ジャナ研の憂鬱な事件簿4』

酒井田寛太郎 先生が贈る日常系ミステリー。第4巻は“啓介”が事件と関わる姿を通じて
真実とどう向き合うのかを問いかける“真冬”が、その答えに対し彼の本質を見抜きます。
(イラスト:白身魚 先生)

http://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784094517484


「金魚はどこだ?」では写真部がコンクールで金賞をとった被写体である金魚とその鉢が
無くなる事件に臨む“啓介”。部員の“玲”が置かれている境遇などを踏まえ真相に迫る
過程において、自身が「推理する」ということに対する葛藤に似た感情を抱くのが印象的。

「スウィート・マイ・ホーム」では“ユリ”の母が勤める介護施設で起こる騒動を巡って
“啓介”の推理は身を助ける「芸」になると評価する“真冬”と意見が決定的に分かれる
重要な話。白身魚 先生の挿絵が両者の意志を見事に演出しています。自惚れでしたなぁ。

「ジュリエットの亡霊」では幽霊を見たという“玲”の話を受け事の真相を探る“啓介”。
“真冬”が寄り付かなくなったジャナ研の雰囲気と意外な結末がもたらす一抹の寂しさは
気が気でない。加えてあの間の悪さ。“啓介”は己と向き合う暇があるのか気になります。

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2018年09月03日

『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦5』

細音啓 先生が贈る王道ファンタジー。第5巻は“シスベル”を皇庁へ護衛することとなる
“イスカ”たちが彼女に向けられた悪意の数々、その周囲で暗躍する者たちと対峙します。
(イラスト:猫鍋蒼 先生)

http://www.fujimishobo.co.jp/bk_detail.php?pcd=321804000870


“シスベル”から“イスカ”へのあからさまなアプローチに対し“ミスミス”や“音々”
そして“アリス”が黙っているワケがない。特に彼のことを「奪われるかも」と認識した
“アリス”の大爆発ぶりが今後を左右するかもしれない様子で思わずニヨニヨするところ。

皇庁では王女暗殺未遂事件が発生して“仮面卿”に嫌疑が掛かる事態に。その犯人を捜す
鍵を握るのが“シスベル”ということで、彼女の身を脅かす勢力がついに動き出す不穏な
空気は気になる展開。彼女もああいった形で襲撃されることになるとは思わないでしょう。

“イスカ”が“シスベル”を襲う新たな敵の存在に苦戦した、その理由から窺える得体の
知れない何か。それに輪をかけるかのように意味深長な感情を吐露する“イリーティア”
の真意と合わせて読めない部分に注目しつつ、次巻の三つ巴な戦争が楽しみでなりません。

posted by 秋野ソラ at 00:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル