2018年09月28日

『図書館ドラゴンは火を吹かない』

東雲佑 先生の感動ファンタジー作品が、新規エピソードを加えて文庫化。物語師として
成長していく少年が出会った唯一無二の存在となる火竜との旅の行く末を描いていきます。
(イラスト:輝竜司 先生)

http://tkj.jp/book/?cd=TD287465


骨の魔法使いに育てられた“ユカ”の天真爛漫な振る舞い。彼と出会い、匿名の竜から
“リエッキ”として生きる彼女の波乱万丈な生き様。文庫化されたことで、より手軽に
2人の物語に触れられる喜びはまたひとしお。400ページに迫る改稿で密度も高めです。

“牛頭”から託された“カルメ”とのやり取りに“リエッキ”の救いが見出せるか注目
しながら読み進める第四章が今回最大のポイント。あの時の呪使い“左利き”、そして
“相棒”が“ユカ”たちを追跡する中で、敵ながら理解者でもある所を示すのが小憎い。

“左利き”が“ユカ”を庇うことになるあの場面、輝竜 先生の挿絵も絶妙な演出です。
あの森、あの祭の日を区切りの舞台として選んだ“ユカ”の決意、受ける“左利き”の
想いはどうぶつかるのか。ぜひ続刊をもって描いていってほしい。切にそう願います。


◆【MV】Liekki / 初音ミク
https://youtu.be/IE3Ws5gpooY

◆ Liekki 歌ってみた【そらる】
http://nico.ms/sm33896993

◆『図書館ドラゴンは火を吹かない』文庫発売記念生配信
https://youtu.be/Fw4JxmQ-KJ0

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2018年09月27日

『「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ。』

隙名こと 先生の「第7回ポプラ社小説新人賞・特別賞」受賞作。15分で1万円、という
怪しげなバイトを勧めてきた笑わない美少女と関わる少年を軸に描く青春ミステリです。
(イラスト:爽々 先生)

https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8111259.html


クラスメイトからレアメタルなどと揶揄される“水品”からの依頼を承諾した“駒田”。
人体実験? 詐欺行為? 訝しむ彼は電車の中で雑誌を読むことを彼女から指示される。
男性から痴漢行為を受けるかも、と嘯く彼女の言葉に怯える彼はあることに気づく──。

偶然と不運で父を亡くした“駒田”。ネットワークが普及する昨今、その死を弄ぶ悪意
に晒された経験を持つ彼の機微、描写に思わず共に憤りを感じてしまいます。バイトを
通じてもたらそうとする小さな奇跡、その下敷きとなる意図が胸に重くのしかかります。

「私が笑ったら、死にますから」と言い切る“水品”が抱える心の傷とその原因。SNSに
長く触れてきた身として考えさせられる展開です。その傷と向き合い続けた彼女が出す
結論、それを受け止める“駒田”の葛藤。2人の顛末をぜひ見届けてほしいと思います。

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2018年09月26日

『GENESISシリーズ 境界線上のホライゾンXI<中>』

川上稔 先生が贈る戦国学園ファンタジー。11話中巻はヴェストファーレン会議に場を移し
三河争乱から今まで武蔵勢が何を受け止め、考え、行動してきたか。その全てを示します。
(イラスト:さとやす 先生(TENKY))

https://dengekibunko.jp/product/horizon/321804000339.html


舌戦に次ぐ舌戦。バトルなしでも十分熱い。会議に構える武蔵勢の穏やかな雰囲気が嵐の
前の静けさだったと今にして思います。ミュンスター講和条約の場では“ウィレム二世”
に対峙するあの代理交渉人が、情報とハッタリを武器に彼をやり込める展開にまず驚嘆。

オスナブリュック講和条約の場では敵と見ていた瑞典が色々な意味で鍵となる流れには
手に汗握る緊張感で魅せられましたし、ミュンスター講和会議の場では奮戦する“三成”
に無理難題を押し付ける“マティアス”を「彼女」が叩き潰してくれて気分爽快でした。

迎えるヴェストファーレン三河会議の場では“正純”と“教皇総長”の平行線な議論が
外界開拓、創世計画、大罪武装などありとあらゆる論点を昇華させあの結論へ辿り着く
過程には胸を熱くせずにはいられません。第二の月に向かう彼らの命運を見届けます。

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2018年09月25日

『七つの魔剣が支配する』

『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』の 宇野朴人 先生が贈る新作は魔法使いが剣を
帯びる世界で、それぞれの想いを胸に魔境のような魔法学校へ臨む新入生たちを描きます。
(イラスト:ミユキルリア 先生)

https://dengekibunko.jp/product/7-maken/321804000334.html


入学式で行われる魔法生物のパレード。それを見て彼らの人権について語る“カティ”に
突如列から離れたトロールへと足を運ばせる魔法が掛けられる。助けに入る“オリバー”
の目に飛び込んできたのは刀を振るうサムライの少女。魔法には縁が無さそうだが──。

学校長からの容赦ない言葉が示す通り、心技体揃った研鑽が必要なだけでなく上級生らの
言動や人権派などの派閥に翻弄されるなど、まさに混沌とした魔法学校でどう生き抜くか。
“カティ”が巻き込まれた事件を探る“オリバー”らを軸に進む話がページ数的にも重厚。

襲われたトロールを気に掛ける“カティ”の言動が意外な結末を呼び込む中で魅せたあの
“ナナオ”の強さ。彼女の気高さも相まってより惹かれるものが。それだけでは済まない
エピローグで見せたあの一面がまた重そうなテーマで、どう話を動かしていくか注目です。

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2018年09月24日

『はたらく魔王さま!19』

和ヶ原聡司 先生が贈る魔王と勇者の庶民派ファンタジー。第19巻はマグロナルドを離れ
受験勉強に専念するはずの“千穂”がエンテ・イスラの政情変化に巻き込まれていきます。
(イラスト:029 先生)

https://dengekibunko.jp/product/maousama/321805000012.html


制服も返して、いざ! という時に“鈴乃”に提示された辞令。“エメラダ”らの努力を
ふいにする情勢の動きを境に次々と“千穂”が仲介役を担わされるという不憫さには同情
せざるを得ません。ここに“アシエス”の異変が重なるというのだから泣きっ面に蜂で。

思わぬ重責を背負うことになり、見たくもなかった教会の真実を改めて目にした“鈴乃”。
懊悩する彼女の気持ちを救ったのが“真奥”なのは言うまでもないですが、性急に事が
動いた、という印象でした。挿絵から滲ませる表情がまた幸せそうで悩ましい展開です。

いつも通りの仕事しかしていない“真奥”を他所に“千穂”が新たな決意をもってあの
マグロナルド幡ヶ谷駅前店から動き始めていくその姿が凛々しい。それにしても今回は
色々な場面で連絡不備が続いて混迷しましたが、次巻以降でスッキリするか見ものです。

posted by 秋野ソラ at 00:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル