2018年05月17日

『海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと』

石川博品 先生が贈る新作は、ある日突然に発生した未知の奇病による多くの死者を目にし、
異能を手にした少年が謎の生物との戦いや様々な出会いと別れを振り返る顛末を描きます。
(イラスト:米山舞 先生)

http://ebten.jp/eb-store/p/9784047351639/


とある入院病棟。ある病に罹患した“大槻”は、それが完治したという少年“蒼”に話を
聞かせてほしいと頼む。見舞いに訪れたという“蒼”はそれを承諾し、あの日々の最中で
知り合った“ハルカ”を連れ今も眠り続ける“沙也”の病室で事の真相を語り始める──。

死者千人を超す町の周辺は避難指示が出され、自衛隊によって閉鎖され、人間とは容姿が
異なる「魔骸」なる生物の徘徊に怯え単身逃げ回る“蒼”。彼の切羽詰まった心情と力を
手にしてから復讐の念に基づいて命懸けの戦いに赴く緊迫した情景と日常との対比が凄い。

様々な能力を持つ同年代との少年少女が生と死の狭間で魔骸とどう向き合うか。その果てに
“蒼”が見出だした結論と、けれども報われない結末が何とも切なくて、心苦しくて。その
「彼の残していったもの」が少しでも未来に繋がるものであってほしいと願う他ありません。

posted by 秋野ソラ at 00:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2018年05月16日

『常敗将軍、また敗れる』

北条新九郎 先生の「第11回HJ文庫大賞・大賞」受賞作。戦いに赴けば必ず負ける、そんな
異色の経歴を持つ傭兵が戦乱の最中、とある国の存亡に関わる陰謀に巻き込まれていきます。
(イラスト/伊藤宗一 先生)

http://hobbyjapan.co.jp/hjbunko/lineup/detail/784.html


隣国から大軍の侵攻を受けるヘイミナル王国。国王が病で余命幾ばくもなく風前の灯火と
いう状況の中で王弟“デイル”が提言したのが傭兵“ダーカス”を呼びよせること。彼は
「常敗将軍」と呼ばれ、敗北に繋がると周囲から猛反対を受けるが強引に話は進み──。

2万の軍勢に6千の兵と五百数名の傭兵で立ち向かうことになる王国。負け戦必至の中で
“ダーカス”がこれまで負け続け、それでも生き残ってきた、その矜持を見せつけてくる
話運びが面白い。彼を見極めようとする“ティナ”たちが及ばないのも納得の人物像です。

事の発端となった今回の戦に、当初の動きからは想像もつかない因縁や妄執が絡み合って
王国の負け戦が演出される結末も見所と言えます。話の鍵を握らされる“マルハルド”に
思わず同情の念を禁じ得ません。乱世の時代が生み出した傑物の生き様、とくとご覧あれ。

posted by 秋野ソラ at 00:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2018年05月15日

『→ぱすてるぴんく。』

悠寐ナギ 先生の「第7回講談社ラノベ文庫新人賞・佳作」受賞作。一人でいるのがが好き
という少年が、一年前にネット恋愛で付き合い始めた彼女の来訪から生活を一変させます。
(イラスト:和錆 先生)

http://lanove.kodansha.co.jp/books/2018/5/#bk9784065115138


インターネットでの文字のやり取りから始まり、音声通話、そしてビデオ通話へと関係を
深めてきた“緋色”と“スモモ”。いつか直接会えるかも、と夢見る彼の期待を超えて
同じ高校に進学、そして近くに引っ越してきた彼女の姿を見て思わず顔が火照るが──。

画面越しの恋愛が現実のものとなってから幸せいっぱいの日々を過ごす二人の様子が実に
初々しくて、こそばゆくて。ただ、学校ではやや浮いた存在の“緋色”に突如「彼女」が
現れたことで周囲から好奇の目に晒されることが思わぬ事態を引き起こすことになります。

なぜ“緋色”が「ネット恋愛」という形にこだわったのか。過去の失敗が重くのしかかり
再び恋愛にしり込みしそうになる彼に救いの道はあるのか。“スモモ”の想いは届くのか。
「炎上系青春ストーリー」が示すその意味と二人の恋愛の行方を見届けてほしい物語です。

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2018年05月14日

『三角の距離は限りないゼロ』

岬鷺宮 先生が贈る新作は、「ひとりのわたし」でありたいと願っている二重人格の少女と
人前でキャラを作ってしまう少年の出会いが織り成す、少々変わった三角関係を描きます。
(イラスト/Hiten 先生)

http://dengekibunko.jp/newreleases/978-4-04-893829-7/


お気に入りの文学小説を読んでいる所を見られ、気恥ずかしさを覚える“四季”。それが
“秋玻”との、そして彼女のもう一つの人格“春珂”との出会いのきっかけ。入れ替わる
人格の違いに驚きつつも、彼は彼女らの学校生活をサポートしようと決意するのだが──。

しっかり者の“秋玻”に一目惚れした“四季”を、うっかり者の“春珂”が後押ししよう
とする構図に周囲から「付き合っているのか」と揶揄される様子は微笑ましさを覚えます。
けれど、冒頭で手紙を書く場面が暗喩する不穏な状況が彼女らに降りかかる時を迎えます。

人は誰しも矛盾を抱えて生きている。それをどう折り合いをつけるか。彼と彼女らの立場
それぞれに機微を描く先生の手腕には相変わらず心揺さぶられるほどに惚れ惚れします。
ラストのあの場面は中々に卑怯で良いですね。口絵は最後に見ることを推奨しておきます。

posted by 秋野ソラ at 00:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2018年05月11日

『勤労魔導士が、かわいい嫁と暮らしたら? 2 「はい、しあわせです!」』

空埜一樹 先生が贈る新婚スローライフ・ファンタジー。第2巻は“リルカ”が“ジェイク”
に対して突如「実家に帰らせて頂きたいのですが」と告げる衝撃の一幕から話は始まります。
(イラスト/さくらねこ 先生)

http://hobbyjapan.co.jp/hjbunko/lineup/detail/782.html


有給休暇の強制消化を命じられた“ジェイク”が“リルカ”の里帰りに同行。彼女の家族
からも覚えが良い感じで何とも微笑ましい。そこへ友人の“アネス”が現れ結婚に猛反発
してきますが全く太刀打ちず、これまた可愛らしい。流す涙に込められた想いが尊いです。

旅行から戻ると今度は“ジェイク”に弟子入りしたい“サーヤ”が職場に押し掛けてきて、
それを見た“リルカ”のヤキモチを焼く様子に思わず床をゴロゴロ転がりたくなりました。
無茶をする“サーヤ”に自信の過去を重ねて助言する“ジェイク”の言葉が心に響きます。

そして軟派な同僚“ザック”に訪れる心境の変化、思いがけない人生の岐路。“ジェイク”
と“リルカ”も少なからずそこに関与する形で進む話の先に彼が選ぶ道が潔く男を魅せて
くれます。さくらねこ 先生の挿絵がどれも美麗すぎて眼福の一言。ごちそうさまでした。

posted by 秋野ソラ at 01:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル