『気づけば鎧になって異世界ライフ』

『魔法幼女と暮らしはじめました。』の 猪野志士 先生が約３年ぶりに贈る新作。異世界に
転生したものの鎧になって、しかも少女が身に着けていて、と驚きの非日常生活を描きます。
（イラスト／吉武 先生）

【 http://dengekibunko.jp/newreleases/978-4-04-892472-6/ 】


薄暗い部屋で目を覚ました“アスヤ”は記憶もおぼろげで、通りがかった“エルセリッタ”
に鏡を見せられて初めて自分が鎧になっていることに気がつく。彼女の体に合わせて変化
した彼は身に着けてもらうことで異世界の旅に出る。密着する柔肌にドキドキしつつ──。

それなんてエロゲ？　と某ゲームを思い出させるようなシチュエーション。意外と物知らず
な“エルセリッタ”を助けつつ穿獣を倒す旅の中で出会った“フィリオ”に好意を寄せられ
てみたりと思っていたよりもエロさはなく、前半はコミカルな様子が楽しめる話運びです。

後半は“アスヤ”が少しずつ記憶を取り戻し、異世界に存在する意味を問いかけられる割と
シリアスな展開へと遷移していきます。迫られる選択に“アスヤ”がどういった結論を導き
出すのか、それが見どころになります。この展開はアリだな、と楽しませてもらいました。

『悪逆騎士団 そのエルフ、凶暴につき』

『課外活動サバイバルメソッド』に続く 水瀬葉月 先生の新作はダークファンタジー。暴力
と欲望が渦巻く街で治安を預かる女エルフを団長とした騎士団の悪逆非道ぶりを描きます。
（イラスト／ももこ 先生）

【 http://dengekibunko.jp/newreleases/978-4-04-892562-4/ 】


“マリアーナ”監察官が訪れた先はニルイースト常駐治安騎士団。誰が呼んだか悪逆騎士団
として蛮都の治安を預かる団員の騎士にあるまじき振舞いの数々に唖然とする彼女は団の長
“アリシア”から意外にも、ある決定的な指摘を受けることになる。なぜなら彼女は──。

元・伝説の娼婦“ローズリリィ”、拷問のエキスパート“ヒオ”、暗殺者“コル”、ジゴロ
の“ベルガラン”、そして傍若無人なエルフの“アリシア”。“マリアーナ”じゃなくても
ビックリするほどの言動に潜む騎士団としての在り方に気付かされたときの読了感が爽快。

蛮都の悪者すら恐れるほどの悪逆騎士団がワナに嵌められてからの窮地を、彼女たちらしい
手段で覆していく展開が実に濃厚で見所にあふれています。幕間で補完される物語も独特の
世界観を感じることができて面白い。シリーズ化も望めそうですが先生がお忙しいですかね。

『月とうさぎのフォークロア。 St.1 月のない夜、あるいは悩めるうさぎ。』

徒埜けんしん 先生の「第８回GA文庫大賞・奨励賞」受賞作。人の世に在る「神人」たちが
縄張りとなる「家」を守るため抗争を繰り広げる異世界。関わる者たちの命運を描きます。
（イラスト：魔太郎 先生）

【 http://www.sbcr.jp/products/4797389289.html 】


パッと見は人間と変わらない神人の“朔”と兎の耳に尻尾、そして白い髪をもつ美少女の
神人“白”は月夜見一家に縁のある仲良しな二人。そこへ六坂組に勢力を奪われつつある
お隣の犬吠埼一家が助けを求めてきたことから穏やかな日常に陰りが見え始めてきて──。

“朔”のことが大好きな“白”を可愛らしく描く 魔太郎 先生のイラストが絶妙なことと
裏腹に彼女自身は中々の武闘派。話の展開も、やくざモノの抗争をガチで綴ってくるので
色々なギャップが楽しめる内容に仕上がっています。親が暗殺されるあたりからは特に。

深刻化していく抗争を収めようと立ち上がる“朔”の男らしい振る舞いや“白”のことを
大事に思っている様子に好感が持てます。だからこそ辿り着いた結末に対して抱いた怒り、
やるせなさが映えるかと。お手に取ってみることを薦められるシリーズ作品の登場です。