2015年09月10日

『セブンスターズの印刻使い 1』

「小説家になろう」発表作の書籍化にして 涼暮皐 先生のデビュー作。伝説の冒険者の一員
であった少年が、魔力を抑止する呪いの解呪法を求め学院でダンジョン踏破を目指します。
(イラスト/四季童子 先生)

http://hobbyjapan.co.jp/hjbunko/lineup/detail/619.html


魔術師を養成する学院があるオーステリアは魔術師の都、そして迷宮を有する冒険者の都。
その学院で行われる学生同士の魔術合戦で4つのシード枠に対し推薦された5人目の生徒
“アスタ”は成績最下位だが、ある問題ゆえに冒険者を廃業した経歴の持ち主で──。

世界を驚かせた伝説の魔術師七人で構成される冒険者集団「七星旅団(セブンスターズ)」。
その出自の多くが不明なところ、そして“レヴィ”と“アスタ”の意味深長なやりとりから
察するのはそう難しくないかと思いますが、徐々に明らかとなる背景はなかなか興味深い。

思うところ有りまくりの“シャルロット”に情けない顔を見せるコミカルな要素もあったり
するのがまた面白い。四季 先生も上手く汲み取って挿絵に仕上げてくるから流石の一言。
思いも寄らぬ敵との遭遇に先行きが見えない冒険はどこへ向かうのか。次巻に注目です。

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2015年09月09日

『碓氷と彼女とロクサンの。』

阿羅本景 先生が「ファミ通文庫」から初めて贈る新作は、観光集客を目的に廃線となった
線路へ伝説の電気機関車を走らせるプロジェクトに携わる少年少女たちの青春を描きます。
(イラスト:バーニア600 先生)

http://www.enterbrain.co.jp/fb/pc/08shinkan/08shinkan.html#_02


日本でも屈指の坂がある峠を往来する横川〜軽井沢間。かつて専用の電気機関車「EF63」が
作られるほどの要所も廃線に合わせ活躍の場を失った今、運行復活により観光に一役買おう
とする「しぇるぱ部」、そして“夏綺”の存在を“真”が知る場面から物語は始まる──。

鉄道が主軸となる物語だから挿絵は バーニア600 先生に、って安直だけど鉄板だから仕方が
無い。列車の勇姿は言うに及ばず、“夏綺”たちも可愛いですし最強です。作中の“丸池”
のような鉄の要素を持たない 阿羅本 先生がこれだけ読みやすい話を書くのだから驚きです。

荒唐無稽とも言える“夏綺”の夢を笑うことなく真摯に受けとめ、共に歩んでいこうとする
“真”が見せる男気。そして何よりも“夏綺”をはじめとする「しぇるぱ部」の面々の情熱
をもって一つの伝説を築きあげるまでの感動あふれる物語は一読の価値あり。オススメです。

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2015年09月08日

『艦隊これくしょん -艦これ- 陽炎、抜錨します!6』

築地俊彦 先生が贈る公式ノベライズ。第6巻は佐世保鎮守府で秘書艦就任、という大任を
任された“陽炎”が第十四駆逐隊と共に佐世保で困惑しながらも成長する様子を描きます。
(イラスト:NOCO 先生)

http://www.enterbrain.co.jp/fb/pc/08shinkan/08shinkan.html#_03


膨大な事務処理をこなすところから始まり、作戦遂行の進退をも決められる立ち位置という
こともあり力不足ではないかと悩まされる“陽炎”。秘書艦経験者からの助言を受け徐々に
立ち回りが上手くなっていく様子に胸が熱くなります。“叢雲”のアドバイス、最高ですわ。

“陽炎”の成長を見守る隙を突いて各鎮守府、泊地、基地が深海棲艦から攻撃を受ける事態
が発生。敵の中心、E海域へ最大12人の艦娘で編成を組んで臨む「連合艦隊」の攻勢作戦が
発動。“陽炎”の苦悩ぶりが如実に伝わるだけに支えてくれる艦娘たちの姿勢が素晴らしい。

第十四駆逐隊、特に“曙”が示す対応の変化も成長の証、ということで秘書艦であることに
注力しすぎて彼女たちの思いに気づくのが遅れた“陽炎”の吹っ切れた言動が清々しいです。
“陽炎”たちを支えると決意する「彼女」の行動は功を奏するか、最終巻に期待が高まります。

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2015年09月07日

『吸血鬼になったキミは永遠の愛をはじめる(5)』

野村美月 先生が贈るドラマティック青春ノベル。第5巻は運営上“いち子”に交際のNGを
出された“詩也”と“綾音”が「つきあってない」宣言をしつつ、甘い日々を過ごします。
(イラスト:竹岡美穂 先生)

http://www.enterbrain.co.jp/fb/pc/08shinkan/08shinkan.html#_03


恋人然な雰囲気を周囲から指摘されても恋人ではないとやんわり返す“詩也”と“綾音”。
その周囲から見えないところで初々しくつきあう二人を見て心中穏やかではない“雫”や
淡い想いを抱く女性陣たちの心境も代わっていったりと騒々しくなっていく様子が楽しい。

バレンタイン公演では『ロミオとジュリエット』、ホワイトデーには『ドラキュラ』の男女
逆転版を選んだレグルスで主役を張る“詩也”と“綾音”は、これまでの経緯を振り返り
散々悩み、救われたことに改めて感謝し絆を深めていく様子に注目が集まりますが──。

と、ここで「あとがき」にて先生から告げられる衝撃の現実。ラノベのライトユーザーと
ヘビーユーザーの認識に大きな乖離があると突きつけられたことに無力感を覚えました。
担当編集さんと共に、どうにかしてその思いを形に出来ますことを心より願う次第です。

posted by 秋野ソラ at 00:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2015年09月06日

『東京定年』

『異世界居酒屋「のぶ」』でコミカライズも果たし勢いを見せる 蝉川夏哉 さんのふとした
思いつきをもとに、糸畑要 さんが企画・編集して「コミックマーケット88」にて頒布した
アンソロジー。他に 谷津矢車 さん、DJあかい さんを迎えて44ページに渡る短編集です。

http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/33/75/040030337551.html


東京への人口集中、そして高齢化する状況を問題視し成立した、いわゆる「東京定年法」
により東京に住む65歳以上の高齢者には高額の税金や医療費等の負担割合増加が課せられ
東京から出ることを余儀なくされる──。そんな未来を想定して生まれた短編の数々です。


一作目は原案の発案者である 蝉川夏哉 さんによる「東京ゴールデン街の夜」。浜松に移り
5年が経過した“忠雄”が久々に東京、新宿へ足を運び「東京定年」を迎えた高齢者の哀愁
に触れながら、「ゴールデン街」の雑多な雰囲気が取り持つ奇妙な縁を描くエピソード。

冒頭でも述べた通り、「異世界グルメもの」での活躍がめざましい 蝉川 さんらしい飲食の
描写を踏まえつつ、高齢者だけでなく若者も視点に加えることでありえそうな未来や考え方
をより現実的なものとして感じさせる小編でした。最後に僅かな救いがあるのが良いです。


二作目は 蝉川 さんの原案にのって企画・編集を務めた 糸細要 さんによる「第4の人生」。
もうじき65歳、「東京定年」を迎える専業主夫の“昭雄”がまだまだ働き盛りの妻“凪子”
との関係を見つめ直し学校、会社、夫婦とは違う新しい生き方を模索する顛末を描く小編。

「高齢者適正居住推進センター」、通称「姥捨機関」という東京の外へ移住する候補地を
その人の資産状況や家族構成などを元に機械的に選び出すこの機関の衝撃的な描写たるや。
娘の“佐久良”が“昭雄”のことを考えてくれる良い子であるところに希望を感じました。


三作目は、ゲストとして迎えられた DJあかい さんによる「ドキュメント・東京定年」。
彼女から結婚を迫られ、いざその親に会ってみると「仕事が不安定な奴に娘はやれん」と
否定される始末。30歳直前ということもあり人生設計を見直す“僕”の機微を描きます。

「独立行政法人 人口適正化機構」いわゆる「東京定年機構」に転職した“僕”が高齢者
と応対する回数を重ねていく中で、東京の問題を地方に押し付ける施策への疑問を示唆する
短いながらも考えさせられる小編。最後に親が「落とし前」をつけてくるのが潔いです。


四作目、アンソロジーの最後を飾るのは 谷津矢車 さんの「そう、それは灰色の未来」。
「東京定年法」の施行から10年が経過した日本で同じ嗜好をもつ老人たちが新しい組織体
「インテレシャフト(興味社会)」を形成されていると記事を書く“潮見”に関する話。

「東京定年」に更なる可能性を加え新たなテーマとして投げかけ直す、約20ページに渡る
小編はトリを務めるだけあって実に読み応えがあります。谷津 さんの体験? を活かした
ちょっとした遊び心も加えられていて思わずニヤリとさせられる場面も。実に秀作でした。


2015年の1月3日、Twitter 上での 蝉川 さんと 糸細 さんのやりとりを拝見して興味を
抱いた企画がこうして1冊の本にまとまる、そして読めるという現実を目の当たりにして
「同人誌」の可能性と言いますか、凄いものだと実感いたしました。オススメの一冊です。



#(参考)

##東京定年 まとめ
#【 http://togetter.com/li/765729

#谷津さん、「東京定年」寄稿作について語る - 谷津矢車観察日記
#【 http://blogs.yahoo.co.jp/yatsuyaguruma_sousaku/13541325.html


posted by 秋野ソラ at 00:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | 同人誌