2011年05月28日

『こうして彼は屋上を燃やすことにした』

「第5回 小学館ライトノベル大賞・ガガガ大賞」受賞者、カミツキレイニー 先生の
デビュー作。麻枝准 氏が 「鳥肌モノ」 と賞賛した青春小説を拝読しております。
(イラスト/文倉十 先生)

http://gagaga-lululu.jp/gagaga/lineup/201105.html#02


恋敗れた “ドロシー” が “ライオン” や “カカシ”、そして “ブリキ” がもつ
問題の解決に奔走する中で見た彼女たちの 「屋上」 以外の繋がりが印象的でした。
著者コメントにあるように 『オズの魔法使い』 をよく知らなくても確かに楽しめます。

「臆病なライオン」 「脳の無いカカシ」 「心の無いブリキの木こり」。それらを勇気が
無くて怒ることができない“ライオン”、知恵が無くて泣くことができない “カカシ”、
心が無くて笑うことができない “ブリキ” と当てはめることで見事に話が繋がっていく──。

それでいて現代を象徴するかのような学校背景を舞台にした独自のジュブナイル小説へと
落とし込めているのが大賞たる所以でもあり、麻枝准 氏の賞賛へと繋がった結果でも
あるのかと思ったりしました。「ガガガ文庫」もやるわね、ということでオススメしておきます。

posted by 秋野ソラ at 00:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

『キミとは致命的なズレがある』

「第5回 小学館ライトノベル大賞・優秀賞」 を受賞されました 赤月カケヤ 先生の
デビュー作。失った記憶とその残滓が織り成すサスペンス作品を拝読しております。
(イラスト/晩杯あきら 先生)

http://gagaga-lululu.jp/gagaga/lineup/201105.html#01


「キミ」とは誰か? 「致命的なズレ」とは何か? そんなことを “海里克也” とその
周囲にいる人たちとのやりとりから類推しながら読んでいくといい感じに引き込まれて
ひっくり返される。そんな読了感を味わわせてくれた作品だと思います。

彼の記憶障害と突然見えるようになる「何か」、差出人の無い手紙に書かれたある意味
昔の記憶を無くして生きる彼を糾弾するかの内容、保険医 “鏡司” と父 “夏彦” との
思わせぶりな会話、それぞれが1つの可能性へとミスリードしていく流れが巧手かと。

章立てにもある “赤鬼” という存在がその可能性を打ち砕くための鍵でもあったのだと
気づかされた後に突入する狂気の世界。冒頭に挙げた疑問符、その問いかけも解消されて
「なるほど〜」 と思わせてくれて妙に納得できる。中々のものだと言えると思います。

posted by 秋野ソラ at 00:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

『ハレの日は学校を休みたい!』

陸凡鳥 先生が全ての学園祭嫌いに贈る青春ラブコメ。アンチ学園祭活動家として
暗躍する主人公が、かけられた冤罪を晴らすべく奮闘する物語を拝読しております。
(イラスト/切符 先生)

http://gagaga-lululu.jp/gagaga/lineup/201105.html#05


学園祭の開催を何としてでも中止させたいと常日頃考えている “響川” がいつの間にか
実行委員の “詩ノ森” と組んで学園祭の開催を少しでも手を貸す形になってコメディ的
展開に流れていく序盤から中盤にかけては素直に面白く読めます。

容疑者の「学園祭嫌い」を体系化し、その要因を取り除くことで犯人を絞り込む手法で
脅迫状騒動を収めようとする最中、「そもそも何で “響川” は学園祭が嫌いなのか」
という理由が実はとある昔話と結びついていて・・・という終盤への畳み掛けも良かった。

“響川” の容疑が晴れてからも、もう1つ波を用意してそれを解決に至らせる大団円な
落としどころも好感触な読了感を与えてくれて思わぬ良い買い物をした気分になりました。
青春モノとしてこれはオススメしてもいいかな、ということで挙げておくことに致します。

posted by 秋野ソラ at 00:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

『夜のちょうちょと同居計画!』

「メディアワークス文庫」 にて 『空の彼方』 シリーズを上梓する 菱田愛日 先生が紡ぐ
キャバクラ + 青春 + 学園 + 同居 + ラブコメディ。前代未聞のジャンルに挑みます。
(イラスト/さんた茉莉 先生)

http://dengekibunko.dengeki.com/new/bunko1105.php#new14


学生なのにキャバクラってどうなの? という下地を「適正と将来を見据えた職業訓練の場」
と位置づけることで解消してからは「キャバクラという職業で成功するにはどうすれば・・・」
とキャラクターに的を絞って話が進んでいく、少年少女の成長を描く物語。

今巻の話の肝はやはり “瑠花” でしょう。「何で私がキャバクラ嬢!?」 というギャップに
憤り、悩み、折り合いをつけ、一縷の望みを見い出し、挫折し、それでも仕事として向き合う。
若い頃の苦労は買ってでもしろ、という格言を示すかのような話運びはアリかと思います。

そしてそんな彼女を何やかやと言いながらも支え続ける “奈斗” もボーイとして、あるいは
一個人の人間として大きくなっていく様子、その奮闘ぶりは良かったかなぁと感じました。
ということで続きが出るのなら手に取ってみるのも悪くないと思われる1冊でございます。

posted by 秋野ソラ at 00:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

『雨の日のアイリス』

松山剛 先生の 「第17回 電撃小説大賞・4次選考作」 が登場。人間と何ら変わらない
姿を持つ家政婦ロボットが辿る数奇の運命が、視界を遮るほどの雨を伴って描かれます。
(イラスト/ヒラサト 先生)

http://dengekibunko.dengeki.com/new/bunko1105.php#new15


読み終わってから改めて表紙を見返した時の、あの妙な納得感に名前を付けてあげたい。
・・・というのはさておき。これはオススメされるのも分かるなぁ。涙に頬を濡らす人がいるのも
分かるなぁ。そんな想いをよぎらせてくれた、清々しい読了感のある作品だと思います。

博士との幸せの日々から一転した強制労働に従事する毎日。そんな中で出会った仲間と
密かに同じ時を過ごす読書会の時間。理不尽な廃棄行為からの脱出行に挑むロボット達。
迫るタイムリミット。果てに見る幻。そして一つの結果へと繋がっていくエピソードの数々。

「雨」 というキーワードがその時々によって意味合いを変えてくるのも中々に興味深い話の
展開具合で、それがまた物語を読み進めていく上での潤滑油にもなっていたかと思います。
ということで私からもお手に取って読んでみることを推薦しておきたいと思う次第です。

posted by 秋野ソラ at 00:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

『ストライク・ザ・ブラッド(1) 聖者の右腕』

三雲岳斗 先生の新シリーズ。世界最強の吸血鬼と、それを監視するべく接近する
少女の出会いから始まる学園アクションファンタジーを読ませていただいております。
(イラスト/マニャ子 先生)

http://dengekibunko.dengeki.com/new/bunko1105.php#new11


昨今見られる 「従来から悪と見なされている存在を悪として描かない」、例えばそんな物語。
どうみても吸血鬼には見えない少年 “古城” に直面して戸惑いの色を隠せない “雪菜” の
様子がそんな雰囲気を想起させてくれる出だしがまず印象的です。

二人が出会った魔族特区 「絃神市」 を脅かす敵の登場に止む無く手を取り共闘するも
「第四真祖」 としての力、「剣巫」 としての力も及ばず一度は敗退しますが、それを覆す
ために打つ起死回生の一手。まんざらでもない所がまた魅力的というか蠱惑的というか。

「攻魔師」 の道を邁進する “雪菜” がつっけんどんなのか、と思わせつつも人間味溢れる
表情、言動を見せてくれるのが見ていて面白いです。周囲の人間もどこかいわくありげな
様子を含ませてくれていて続きに期待が持てる内容かと思います。次巻が楽しみです。

posted by 秋野ソラ at 00:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル