2010年10月31日

『ソード・ワールド2.0リプレイ たのだん 〜いにしえの船を追えっ!〜』

「富士見ドラゴンブック」 より刊行されていた 藤澤さなえ 先生の 『たのだん』。
シリーズは完結しておりますが、「ocelot」 とタッグを組んで 「キネティックノベル」
として新たな日の目を見る、ということで一通り読ませて頂きました。・・・ようやく。

http://ocelot.product.co.jp/products/tanodan/


・・・分かっていても 「2D6を振らされる」 となるとついつい手に汗握る感じが。(^^ヾ


文庫という形式ですと、「ダイス振って?」 「〜が出た!」 というのはほんの1〜2行で
表せてしまうのですが、今回の形式を取ることで 「出目がページをめくった時に分かる」
というような限定的な読み手への緊張感を常に与えることが出来ていると感じました。

クリティカルしてダイスが回った時の嬉しさとか、自分のことのように思えますし。

まぁ、その代償というか、魔法や各種技能の効果表現で時間を取られる感覚は否めない
ですが、そこはシステムの限界としてひとまず置いておくしかないでしょう。何よりも
物語を楽しむことができれば良いのですから。


その物語としては、まず位置付けが文庫の2巻〜3巻の間に起こった出来事である、と。
以前に調査したことのある遺跡を巡ってもう一度、今度は壮大なストーリーが幕を開ける
やや既読者向けの展開ですね。もちろん初めて触れる方向けに導入もしっかりしてますが。

それにしても “レクサス” さんの 「安心力」 がハンパない。この圧倒的な力に常時
あてられていたのかと思うと、また違った意味で 藤澤 先生の凄さを実感させられました。
声に出されると 「安心力」 がより実感できるというか、なんというか。(^^;

「DreamParty」 で行われた 「CV声優オーディション」 を拝見した身としてはこうして
それぞれのキャラに声が付くと、読み手としても感慨深いところもあったり。イメージに
しっかり合わせてきていて良いキャスティングではないかと感じています。


初回限定版に付いている 「スペシャルおまけブック」 を拝読すると、今回のシナリオの
裏側が覗けてこれまた面白いところ。GMである 田中公侍 先生の「ひとりごと 番外編」や
「裏リプレイ」 とか。田中 GMガンバ! という気に、思わずなってしまいます。(^^;

そういった裏事情も含めてシナリオを振り返ってみると、ダンジョン・アタックという
『たのだん』 らしいところに話の軸を置きつつ、人族と蛮族との存在意義を問いかけあう
「SW2.0」 のキャラクター性を活かした話運びだったのだなぁ、と思うことしきりです。

ドラマCDとはまた違う 「TRPGリプレイ」 の新たな形を、可能性を確かめさせて頂きました。
十分に「アリ」だと思います。「キネティックノベル」 でこうした試みができるのであれば
「神曲奏界ポリフォニカRPG」 でも実現できそうだと、淡い期待を寄せてみることにします。

posted by 秋野ソラ at 17:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

2010年10月30日

『FORTUNE ARTERIAL(5)』 『てるてる天神通り(5)』

TVアニメの放映も開始している「オーガスト」原作の「FA」コミカライズ第5巻、
そしてそのコミカライズを担当する 児玉樹 先生が描くハートフルコメディの
最終巻が同時刊行となっております。

http://www.kadokawa.co.jp/comic/bk_search.php?pcd=201006000609
http://www.kadokawa.co.jp/comic/bk_detail.php?pcd=200907000146


「FA」5巻では東儀家のしきたり、伽耶の過去、伊織の嘘、瑛里華の告白・・・・と
だいぶ色々なところが見えてきてシリアス一直線、というところ。そんな余韻を
巻末の4コマ漫画が気持ちいいほどに吹き飛ばしてくれますが、それもまた良し。

もう何度も言ってますがコミカライズ作品としての出来の良さには敬服します。
ということで「コンプティーク」のアンケートハガキで一番良かったコンテンツ
に毎回投票するのは継続中です。翌年3月刊行予定の次巻も楽しみにしています。


そして 『てるてる天神通り』 最終巻では “八雲” に憑く 「疫病神」 が顕現。
“天志” が体調不良に陥って寝込み、原因を探ろうとした “おフク” は攫われ、
そこに “五十鈴” の複雑な胸中も相まって 「天神通り」 の一大事へと話は進展。

そんな窮地を救ったのは “御菓子” の信じる心であったり、「天神通り」 の皆を
信頼する “天志” の想いであったり。それを裏打ちするように真っ直ぐな言動が
何とも潔い。ラストも何ともハートフルで心温まる感じがしました。

ここで幕を引かれるのは惜しいところではあるのですが、ひとまずは連載の無事終了を
一読者の身から心よりお祝い申し上げます。そしてお疲れさまでございました。
児玉 先生の次回作に出会えることを期待しつつ、筆を置くことにします。

posted by 秋野ソラ at 00:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | コミックス

『10歳の保健体育(2)』

「10歳のお子様の目の届かないところでこっそり読んでほしい本」ランキング堂々1位と
オビで高らかに宣言された 竹井10日 先生の問題作(笑)。懲りずに第2巻の登場です。
(絵 : 高見明男 先生)

http://data.ichijinsha.co.jp/book/booksearch/booksearch_detail.php?i=75804184


・・・なんか色々と、伏字じゃなくて大丈夫なのカナ? カナ? って気もしますけど。(^^;


“静姫” はどんだけ女の子に好かれれば気が済むのか、というくらい言い寄られますが
あまり嫌味に感じないのは女性に対して淡白に見える言動からか、ボケなんだかとぼけて
いるんだか分からない言動ゆえか。何にしても独特なキャラクターだと思います。

“綾音” のバカ姉っぷりや “翠蓮” の超デレ具合、“はみる” の純真さ、と女性陣も
それに負けないほどのキャラクター性を発揮しております。今巻で登場した “和恋” も
同様に。・・・というかこの人が大活躍したらそれこそ大変なことになりそうな予感が。

正直に言うと万人向けではありません。ですがこのセリフ回し、話の動かし方こそが
竹井10日 先生の真骨頂。先生の本気が見たいのなら読むべし、と言わねばなりますまい。
・・・というかこのラストで続くの!? 狙いが読めなさすぎて気になります。(w


#「ちなうんです」 ってここまで何回も言わせてくるのがマジでハンパない。(w

posted by 秋野ソラ at 00:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

『終わる世界のアルバム』

『さよならピアノソナタ』、『神様のメモ帳』 と 「電撃文庫」 で秀作を上梓し続ける
杉井光 先生がハードカバーの単行本を初めて出す、ということでフライング・ゲットして
読ませていただきました。

http://dengekibunko.dengeki.com/new/tankobon.php#t1010_1


出だしはいつもの 杉井 先生作品らしいキャラクター同士のやりとり。ただ、次第に
「生きた痕跡ごと人間が消滅し、記憶にも残らない」 という、読み手からすれば
非日常な現実が、例外的に記憶を保持できる少年 “マコ” たちの日常に去来する。

“マコ” たちのいる世界の異常性が描かれていく中、突如現れた “奈月” という
少女に 「人が消えても平然としていること」 に対する異常性を指摘される。そして
記憶を記録するための 「写真撮影」 という代償行為の本質に気付かされる。

やがて近しい人が消えた時、“マコ” は自分自身の異常さと向き合い、絶望する。
さらに “奈月” の秘密が明らかになったとき、彼が失っていた記憶と想いが蘇る。
全てを捨てるために、消えるために、その象徴たる「海」へ向かう二人──。


「人が消える」 という異常性を表現するのに 「音楽」 を用いたりだとか、それでも
スターシステムは健在だったりとか、物語のキー・オブジェクトやキー・パーソンの
設定であったりとか、随所に見られる 杉井光 節が幾度と心の琴線に触れてきます。

また、失うことの恐ろしさであるとか、大切な人を想う気持ちであるとか、機微の
描写が瑞々しくて好感が持てます。水平線の彼方に沈んでいく夕陽を、2人はどんな
気持ちで見つめていたのだろうかと、馳せる思いは尽きません。

“マコ” が本当に大切な人を憶えていたいと思ったのか、忘れたいと思ったのか。
ぜひ読んで確かめてみてほしいところです。良い話が読めた幸せをいま、改めて
じんわりと噛み締めながらこの筆を走らせた次第です。


#ページ数もテキスト量もそんなにないですから読みやすいと思いますよ。

posted by 秋野ソラ at 00:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル

『雑魚神様』

鳥村居子 先生の 「第2回メガミノベル大賞」 金賞受賞作品が上梓されております。
水無月冬弥 さんのレビューを見て気になったので読ませていただきました。
(絵: 月神るな 先生)

http://shop.gakken.co.jp/shop/order/k_ok/bookdisp.asp?code=1390354700


人から忘れ去られ、力も無くし、記憶すらもあやふやで不安定な雑魚神 “おまがり様”。
いつしか人や神を嫉み、厭み、ダンボールの中に隠れて過ごすようになってしまった一柱。
彼女の残念さ、切なさ、物悲しさが、従者 “八咫烏” の想いに乗せて伝わってきます。

そんな彼女たちが1枚のハガキをきっかけに訪れた地、福岡にある 「古守八幡神社」。
その神社でもうすぐ行われるのは 「神幸祭」。祀られるのは御名が同じ 【おまがり様】。
お祭りを成功させようと奮闘する “齊” との出会い。その影で暗躍する “桜” との邂逅。

騒動に巻き込まれていく中にあって、別の神を食い殺そうとするほどに弱く、狂いそうに
なってもなお “おまがり様” が最後まで忘れなかったもの。それは「人の願い」。それに
気付いてから起こる奇跡の数々には思わず気持ちが昇華して涙が出そうなほどでした。


日本独特の 「神」 に対する考え方があってこそ成り立つ物語、ということでなかなかに
楽しませてもらいました。お時間があればお読みいただくのも一興かと存じます。

posted by 秋野ソラ at 00:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | ライトノベル